掘る

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掘る

翌日 9:05 AM 犯罪捜査部門室 昨夜ジャックはそのまま病院に泊まった。 今朝には署へ戻り通常勤務をこなしていたジャックだったが、歓迎したのはオリバーだけだった。 フレックスに至ってはジャックを居ない者として見ている。 ジャックは気にせず自分のデスクに座るとパソコンで調べを始めた。 (サーカス団長、カーター・エバンズ……若かったが過去に穴を掘らせていた男に間違い無い) サーカステントでジャックとアイラに怒声を浴びせた男でもある。 (32年前。団員ジェイコブ・ブラウンが行方不明……同年、ショーを観に来た兄弟二人が行方不明……) 許可を取り、手に入れた過去の捜査データを次々確認していく。 (更にそこから一ヶ月後、団員四人が内輪揉めの末、銃撃で全員死亡) 「団長が疑われたが何も出てこず……か……」 ジャックは独り呟きながらコーヒーを含んだ。 同日 8:16 PM 公園 パーゴラ前 「神父様、本当にもういいの?」 「もう少し休だ方が良かったんじゃない?」 まだ顔色の優れないジャックをアイラとアルフィーが心配そうに見詰めていた。 「もう少し休んでたら俺のデスクは確実に消されてるよ……もう他の奴が座って紅茶でも楽しんでるかもな?」 ジャックはぼやきながら用意してきたスコップを手に取ると、二人にもそれを渡した。 「過去が本当だったとして、パーゴラを建てた時にでも気付かなかったのかしら?その遺体に…」 「確かに……」 アイラとアルフィーには昼の休憩時に視た内容を説明済みだった。 「パーゴラの基礎を埋めるには大体50センチ程度の深さで良いらしい。建てられた時も視たが変わった様子は無かった」 「かなり深く掘ったから気付かれなかったって事ね」 「けど、ほんとに掘っていいの?」 アルフィーが不安気にジャックと地面を交互に見る。 「許可は得てる。敷地の持ち主と公園の管理業者それと市長にも「遺体が埋まってるって垂れ込みがあった為に調査したい」てな」 「なら大丈夫か」と言った面持ちでアイラとアルフィーは頷いた。 「始めよう」 ジャックがパーゴラの直ぐ横を掘り始めると続くようにアイラとアルフィーも掘り始めた。 1時間後 「ハァハァッ……神父ッ様?」 「何だッ?……ハァ」 「本当にッ……ハァ埋まって……るのッ?」 「あぁ……ハァ……あと、1メートル位掘ればなッ!」 ジャックとアルフィーはパーゴラの下を慎重に掘り進めた。 今はパーゴラの支柱も外され本体もその場から移動させてある。 「良いぞ!上げてくれ!」 ロープが結ばれたバケツに土が入れられると、穴の上からアイラがロープを引き上げた。 「ハァッハァ……ん……ッハァ!」 引き上げたバケツの土を捨て、また穴に戻す……また引き上げるを繰り返していた。 「嬢ちゃん!代わるか!?」 「平ッ……気ッハァ……」 「僕がハァ……代わるよ」 「あぁ頼む……」 アルフィーが穴に掛けられ脚立をゆっくり登って行った。 「ハァ――…………?」 ジャックが一息吐き手の甲で額の汗を拭っていると、微かに音が聞こえてきた。 「…………オルゴール」 音の正体に気が付くと同時に、ジャックの両手首が何かにそっと掴まれた。 「!?」 掴まれる感覚に覚えがあったジャック。 風船を持つ子供と飴を舐めている子供が手首を掴みながらじっとジャックを見上げていた。 「あぁ分かってる、もう少しだから待っててくれ……必ず救う!」 ジャックは子供達へ微笑んだ。 更に目の前にはオルゴールを鳴らしているピエロが立っていた。 「アンタの事も分かってるもう少し…………」 ジャックは喋るのを途中で止めた。 「原因はアンタじゃなかった……子供が消えたのも、悪魔を煽ってたのも……」 何かに引っ掛かり起こった事を整理する。 「ここで見つけてもらう為でもないなら、アンタがまだオルゴールを鳴らす理由は……」 考えを巡らせながら目の前でオルゴールを鳴らすピエロを見る。 「まさかッ……知らせているのか!?悪魔の動きをッ!」 ジャックが言うと同時にオルゴールの曲が速くなり音量が一気に上がった。 「!?」 ジャックの脳裏に映像が流れ込んでくる。 見えたのは精神病院に収監されている銃撃犯。 鉄格子の向こう側、男は血塗れの状態で床に倒れていた。 そこへ監守がやって来て倒れた男を見つける。 『まさか嘘だろッ!?』 監守はその惨状に驚愕しながら鉄格子の鍵を開けた。 『69番が血塗れの状態で倒れているッ!至急、救急と応援をッウアアアアッ――――……』 開けた鉄格子から、先程まで倒れていた男が血塗れのまま監守に襲い掛かった。 監守は首を折られ、その場に倒れた。 男はそのまま廊下を走り去って行く。 「!!」 ジャックへ流れてきた映像はそこで終わった。 「まさか、今起こってるって事かッ」 「ハァ……ジャック?どうかした?」 脚立で穴へ降りて来たアイラが焦るジャックを見て声を掛けた。 「かなりマズイ事にッ!」 ジャックが事情を話そうとしたと時、彼のスマホが着信を知らせた。 『ジャックッ!マズイ事が起きたッ!』 電話を掛けてきたのはオリバーだった。 「ああ分かってるッ!!銃撃犯の脱走だなッ!?俺も捜索に加わるッ!」 ジャックはそれだけ言うと通話を切った。 「脱走ってッ!?悪魔が憑いてる男よねッ!?」 内容を把握したアイラが驚いた。 「どうかしたの――――!?」 ジャックとアイラの様子をおかしく感じたアルフィーが穴の上から叫んだ。 「悪いが急ぎの用事が出来て行かなきゃならないッ!休憩がてら嬢ちゃんから事情を聞てくれッ!!」 ジャックが穴の上のアルフィーへ叫んだ。 「ジャック!まさか一人で悪魔祓いに行くつもりッ!?」 「この場をこのままには出来ないだろッ」 「だけどッ!」 「救われるのを待ってる!」 「!?」 「ここにいる彼らも……頼む、救ってやってくれ!」 アイラへそう告げるとジャックは足早に脚立を登って行った。
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