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開演
深夜、月明かりが照らす町の中に芝生の生える広い公園があった。
『誰もいないだろう』と思われたその公園に、どこからかオルゴールの音が聞こえてきた。
サーカスに使われるような明るくテンポの良い行進曲だ。
音は公園に設置されたドーム型のパーゴラから流れていた。
そこに一人のピエロが佇んでいる。
カラフルな衣装に身を包み、三股帽子を被ったピエロ。
真っ白な顔に真っ赤な口のペイントは、笑っている様に頬まで塗られ一層際立っていた。
ピエロはパーゴラを舞台に見立て、箱形の手回しオルゴールを軽快に回していた。
曲に釣られるよう幼い少年が一人歩いて来た。
足元を見れば裸足で芝生を踏んでいる。その表情は虚ろで覇気が無かった。
少年は演奏を続けるピエロの前で止まると、同時にピエロもオルゴールを回す手を止めた。
ピエロの両脇に二人の少年が現れた。彼らの顔も虚ろで蒼白く、血の気が感じられない。
少年の一人は白い風船を握り、もう一人の少年の手には赤い飴玉が乗っていた。
歩いて来た少年の前に飴玉が差し出される。
虚ろだった少年は「ハッ」と目が覚めたような表情を見せると、目の前に立つピエロと少年二人を改めて見詰めた。
少年の前には、まだ赤い飴玉が差し出されている。
『くれるのだ』と解釈した少年は少し迷った後、そっと飴玉を手に取り口の中へと放り込んだ。
ピエロが踊るようにその場で一回転すると、飴玉を舐めながら少年は笑った。
直後――カンッと音を立てた飴玉がパーゴラ内に落ちて小さく弾んだ。
落ちた飴玉はコロコロと転がりピエロの足に当たって止まる。
それは先程まで少年が舐めていた物。
飴玉を舐めていた少年は姿を消していた。
流れる雲に月が隠れると、ピエロと二人の少年も暗闇に染まった。
再び月明かりがパーゴラを照らし出した時には、そこには誰もいなかった。
「ニャ――……」
目撃したのは一匹の野良猫だけ。
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