紅葉のしおり

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 その時、目の前で何かがヒラヒラと揺れた。  私の頭上から、先輩が手で揺らしているのだ。 「……紅葉(もみじ)?」  先輩が手に持っていたのは、真っ赤な紅葉の葉。  目の前でひらひらっとさせる。 「やるよ」 「え?」  先輩が持っていた葉を、私の手のひらに乗せる。 「思い出したよ、子供の頃。落ち葉で〈しおり〉作ったりしなかったか?」 「あぁ。子供の頃の遊びですね。作った事ありますよ」  〈しおり〉か。  確かに子供の頃、お母さんと一緒に作ったっけ。  懐かしいな。 「作ったら、俺にくれるか?」 「へ⁉︎」 「ちょうど欲しかったし、綺麗な色だからな」 「あ、あぁそうですね。本当、鮮やかな赤」  私は紅葉を見つめるふりをして、先輩から視線を外した。  急な先輩のお願いに、心が落ち着かない。  俯きかけた私の視界に、何かが映った。 「……同じくらい、か?」  視界に映ったものが先輩の指先だと、気づくまで五秒。  先輩の指先が、私の頬に触れたと認識したら、たちまち全身が熱を帯びる。 「じゃ、お疲れ」 「お、お疲れ様……です」  先輩の姿が小さくなっていき、やがて見えなくなった。  それでも、さっき触れられた頬が熱い。  きっと先輩に他意はない。  でも少しくらい期待してもいいのかな? 「しおり、ちゃんと作らなくちゃ」  先輩に手渡された紅葉を、崩さないように、そっとティッシュに包んだ。
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