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「旦那さま、冷たいあなたも素敵だけれど、さすがに疲れてしまいました。離婚して出て行ってもいいかしら?」
ジェシカの言葉に、夫であるケネスが顔色を変えた。日頃から生真面目で表情の変化に乏しいはずの夫の意外な姿に、ジェシカは思わず笑い声をあげる。
「突然、何を言っている」
「あら、ケネスさまにとっても好都合でしょう。私のこと、持て余していらっしゃったじゃない」
ジェシカだって、仏頂面の夫の気持ちはわかっているつもりだ。ひとの心を縛ることなどできない。けれど、ケネスの口から出たのは予想外の言葉だった。
「それだけ減らず口をたたく元気があるのなら大丈夫だな。さっさとこれを飲んでもらおうか」
「こ、これは」
差し出されたティーカップには、並々と注がれた異臭を放つ液体。侍女ではなく夫自身がそれを用意した意図を考え、彼女は息をのむ。
「離婚する気はない。絶対にだ」
押し付けられたカップを震える手で受け取りながら、ジェシカはケネスを見つめた。
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