運命の人

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「……じゃあ深くは聞かないけど、せっかくアレクが張り切ってるのに出場取消するなんて、できればしたくないわ」 「まあ、ユリアさんならそう言いますよね」 「わかってるならなんで聞くのよ」  ミスミの事がわからない。私はため息をつく。 「剣術大会出場を止めたいのは山々なんですが、ユリアさんが応援に来てくれるのは嬉しいという揺れ動く男心から、ですかね」  そう言いながら、ミスミはこちらに手を伸ばし、私の頬に添えた。正面から真っ直ぐにこちらを見つめる。 「い、今、そんな雰囲気だった?」 「雰囲気とか関係なく、僕はいつでも『そういう』事はしたいんですけど、今回はそうじゃなくって。……ちょっとじっとしていてください」  ミスミの顔が近付いて来る。私はぎゅっと目をつむった。  暖かな感触が、額にちょん、と触れて離れた。 「……防御系の魔法?」  触れたところから、魔力が優しく私を包むのを感じて目を開ける。 「そうです、術式が読み取れますか?」  真剣な顔でミスミに問われ、私は、うーんと考え込む。 「なんとか行けると思うわ。私は何をすればいいの?」 「同じ術式を、大会の日の朝にアレクに施してほしいんです。」  細かく術式を読み解く。これは、身体的な防御というより、精神的な防御の魔法みたい。 「わかったわ、約束する」 「ありがとうございます、ユリアさん」  すっかり油断していたところで、ミスミの腕が私を捕らえる。肩口に顔を埋められて、私はくすぐったさに小さな悲鳴を上げた。 「そんな可愛い声を聞いたら我慢できなくなりそうなので、今はここまでにしておきます」 「ここまでもなにも、ここから先は無いわよ!」  強い拒否の声をあげ睨むけど、多分首まで真っ赤になっているので、台無しな気がする。  案の定、まったく堪えていない顔で嬉しそうに笑って、ミスミが体を離す。 「忘れないでくださいね、僕、ちゃんと見てますから……ずっと」  そういえば、向こうの世界でも同じような事を言っていたな、と思う私を名残惜しそうに見て、それからミスミはいつもみたいに、するりと部屋を出て行った。
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