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3
故郷を離れ、かれこれ七年という月日が経っていた。
木枯らしが吹き、コートの離せない季節となったある日、良く当たる占い師がいると知人から聞いた。
この先、どういった自分を演じて生きて行けばいいのかを、占ってもらうことにした。
その占い師の拠点は、積弘の故郷にあった。
久しぶりに帰って来た故郷は、インフラが整備されていたり、近未来的なデザインの建物や商業施設が増えていた。
時折吹く北風に舞い落ちる葉が、洒落て見えた。
積弘は、占い師の元を訪ね、これまでの経緯を説明した。
彼女は頭からベールを着けており、顔が良く見えない。それでも顔のパーツはそれぞれ整っていることが、外観として窺えた。
今はそんなこと、どうでもよかった。
とにかく、本当の自分を見つけたいと懇願した。
「元々、あなたがなりたい自分を演じる前のあなたというのは、どんな人でしたか?」と、占い師に訊かれた。
「どうだったかな。確か……普通の人」
「普通な人というのは、この世界には一人もいません。皆、素晴らしい個性を持っています。個性に大小や優劣はありません。個性とは、比べるモノでもないのです。だって、この世界で一つだけの星なのですから」
ベールの向こう側で、占い師が微笑んだように見えた。
「たった一個の星と書いて、『いちこせい』なのです」
彼女の後ろの壁に、墨でそう書いてある習字の紙が貼ってあった。
「あなたは、あなたのままでいいんですよ」
「え? 今、何て言いいました?」
「いちこせい」
「いや、その後」
「あなたのままでいいって」
積弘は、占い師を凝視した。あまりの強い視線に、彼女は少し俯いた。
ずっと遠い昔に、その言葉を聞いたことがある。
おっとりした声音、上品なアクセント。
「もしかして、航ちゃん……なの?」
「あら、ばれちゃった」
占い師はベールを上げた。なんとも美しい顔が現れた。アラビアンメイクで別人のように見えるが、間違いない。
航ちゃんだ。
「まさか積くんが、私の占いに来るなんて」
「仕事辞めて、占い師になったの?」
航はコクリと頷いた。
「積くん、七年も辛かったね。私があの時、別の自分を演じてみたら、なんて言ったばっかりに……ごめんね」
航は、申し訳ない気持ちと、やっと会えたという安堵の気持ちで、胸がいっぱいになった。
「あの時、別の自分を演じることで、積くんは変わる必要ない、ということに気付いてすぐに戻ってくると思ったの。まさか、更に別の自分を演じて、引っ越しを繰り返していたなんて思いもよらなかったわ……電話番号も変えちゃうし」
突然、積弘の胸に懐かしい思いが込み上げた。子供の頃の思い出が、走馬灯のように走り抜けていく。
思い出した、本当の自分を。
あの時、君が言ってくれた言葉。
『あなたのままでいい』
別の自分を演じてみて、やっと分かった。
そのままで、良かったんだ──。
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