運命の子

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運命の子

 かわいい我が子が巣から落ちてしまった。  必死になって羽をばたつかせているが、まだ無理だ。  脂肪だらけの重い体、羽毛ばかりの羽。飛べるはずがない。  このままじゃいずれ死んでしまう。いったいどうしたら。しばし思案して、思い切って、かつての友人のもとまで飛んだ。  速く、もっと速く飛べ、でなければあの子は死んでしまう。  場所ははっきりと覚えていた。友人は今もあのときと同じように、窓辺に座っていた。  コンコン、嘴で窓ガラスを叩くと、友人はすぐに気づき、窓を開けてくれた。 「クレア! 戻ってきてくれたんだね、ずっと会いたかったんだよ、クレア!」  友人は頭をそっとやさしく撫でてくれた。わたしも、あなたのその手がどれほど恋しかったか! だけど、今は感傷に浸ってる暇はないの。我が子が、まだ雛だったころのわたしと、同じピンチを迎えているの。あのときと同じように、今度は一刻も早く、あの子を助けて欲しい! 「様子がおかしいね、クレア。どうした? ついてきて欲しいのか?」  そう、そうよ。わがままばかり言ってごめんね。でもお願い、何も言わずに後を追って欲しいの。 「わかった。すぐに行こう!」  あなたは一目散に家を飛び出して、わたしを追いかけ走ってくれた。そういうとこ、変わらないのね。泣けてくるわ。 「まだ生まれたばかりの雛じゃないか! クレア、おまえの子供なんだね?」  そうよ。雨の日も風の日も、人間に箒で突かれた日も、必死に卵を守って孵った雛よ。命よりも大事な子なの。 「巣から落ちちゃったんだな。ほら、もう大丈夫。怪我も……ないみたいだな」  雛は友人の腕の中で、元気にピイピイ鳴いていた。よかった。羽も折れてないのね、皮膚も切れてないのね。ありがとう、子供まで助けてもらうことになったわね。 「クレア? どこに行くんだ? え? まさか、雛を置いて行ってしまうっていうのか?」  ごめんなさい。そのまさかよ。友人とはいえ、人間に触られてしまったその子はもう野生では生きていけないの。よそ者扱いされてしまうのよ。わたしもあなたに拾われ、飼われている間幸せだったわ。でもね、鳥籠から逃げてしまったその後は辛いことも山のようにあったけど、自由に羽ばたいて、ときめく恋をして、それはそれはすばらしい人生だったの。  あなたに抱かれたこの子が、いつか鳥籠を飛び出すかはわからない。ずっと飼われるだけの人生を歩むかもしれない。でも、それだってとても愛されて幸福な人生だということを知ってるわ。  さあ、もう行くわ。ぐずぐずしていると決心が鈍るもの。 「待って、クレア! 行かないで、お願いだよ! もう会えないの!?」    クレアは大空に羽ばたいた。地上、遥か彼方、雛鳥とそれを抱えた人の姿が豆粒のように小さくなっていった。  
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