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「飲み屋のオジサン……。そ、それじゃあ、何が理由なの? そろそろちゃんと教えてくれないか?」
「だから、理由なんてないの! 幸広君のことを否定してるわけでもないの! だけど、幸広君、ラルフローレンとかバーバリーとか着ないよね?」
「う……うん。そんなお金ないから。もしかして、オシャレじゃないところが嫌だったの?」
「だから、違うって言ってるじゃん! 裸じゃなければ、着てる服なんて何でも良いんだから!」
「ホ、ホントに?」
すると、香澄は怒りの眼差しで僕を見た。
「私のこと、疑うの?」
僕は自分を恥じた。香澄は少し世間知らずのお嬢様だが、とても純粋な人だ。それにこれが最後なんだから、彼女とちゃんと向き合おうとも思った。
「ゴメン! 疑って悪かった。信じるよ。香澄はそんな人じゃない!」
すると、香澄は急に冷淡な声を出した。
「私、幸広君のそういうところが嫌いなの!」
「え? そういうところってどこ?」
「そういう性格の良いところ! 何よ! 私がまるで我がままで嫌な女みたいじゃない!」
唖然としている僕に、香澄は目に涙を光らせながら続けた。
「でも、きっと幸広君みたいな良い人にはもっと素敵な女性がお似合いなんだろうな……。私、幸広君との思い出を大切に生きて行くね。私が別れる理由は幸広君が完璧すぎたからだよ……。さよなら、私の愛しい人」
すらりとした香澄の後ろ姿が遠ざかって行く。まるで映画のワンシーンのようだ。僕は思わず心の中で呟いた。
……香澄。逆に聞くけど、僕って良いところ、どこかあった?
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