彼女が僕と別れる理由

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「私、幸広(ゆきひろ)君のこと、否定しているわけじゃないんだよ。でも、もう……」  大きく太陽が傾く夕暮れのカフェで香澄(かすみ)はそう別れを僕に切り出した。切れ長の目を物憂げに伏せる香澄の亜麻色の髪を夏の終わりの風が撫でて行く。  きれいだ、と僕は思わず思った。香澄は高校時代の同級生だった。一流大学に進学して、大手商社に就職した香澄と、専門学校に進学して小さな玩具会社に就職した僕が付き合うことになるとはあの頃は思ってもみなかった。しかし、去年同窓会で七年振りに再会したときに、僕と香澄は意気投合して、交際がスタートしたのだ。だが……。 「……香澄は僕にはもったいない人だと思っていたよ。わかった。別れよう。でも、最後にきちんと理由を話してくれないか?」  僕が俯き加減にそう尋ねると、香澄は細い首を横に振った。 「だから、幸広君のことを否定しているわけじゃないの。あなたに文句を言えるほど、私は立派な人間じゃない。でも……幸広君の車、国産車だよね?」 「え……!? あ、うん。それが理由?」 「違うの! そういうわけじゃないの。だから否定しているわけじゃないんだよ」 「もしかして、僕の給料が安いことが理由なの?」 「まさか! そんなわけないじゃない!」  香澄は心外そうに表情を歪める。 「……そうだよね。じゃあ、何が理由なの?」 「理由なんてないよ。恋が終わるのに理由なんてあるのかな? ただ……」 「ただ?」 「幸広君、身長が百七十センチないよね?」 「え……!? うん。百六十九センチ。それが理由なの?」 「違うわ! 私が身長なんかで恋を終わらせる女だと思うの?」  香澄は目に涙を浮かべた。 「……いや。思わないよ。それじゃあ、何が理由なの?」 「幸広君の会社、東証一部上場企業じゃないよね?」 「う、うん。そうだけど……。そりゃ、香澄の会社みたいな一流企業じゃないけど……」  僕が肩を落として唇を噛むと、香澄は叫ぶように言った。 「勘違いしないで! 私、自分の会社の人達のエリート意識満々なところ、大嫌いなの! 幸広君の偉ぶらない気さくなところが好きで付き合ったんだもん! まるで飲み屋のオジサンみたいで可愛いって!」
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