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⑦
着替えやら荷物一式を持って店を出ると護り猫が尻尾を振りながら見送っていた。
「猫はお風呂には入れないか。お留守番していてね」
サッシの鍵を閉めて昼間の熱気が籠もった路地を行くと、曲がり角に大きな柳の木が枝を揺らしていて、繁華街のビルに挟まれたこのエリアには夕暮れが長くとどまっている。
少し歩いたところに「梅の湯」という銭湯があった。
「銭湯は今の時間はいちばん混むんですよ」
森羅堂のことばどうり、銭湯の前のベンチには風呂上がりの家族連れなどがアイスを食べたりしながら涼んでいた。
そういう景色を見るのは初めてだ。
「銭湯とか来るのは初めてだよ」
「そうでしたか。これが入湯券。回数券ですからこのまま縁台にいる女将に出してください」
手作りらしい回数券を1枚渡された。
「ここは冷泉といって冷たい水が湧き出ているのでそれを温めてお風呂のお湯にしています。森羅堂が代々、薬湯を提供しているんですよ」
「じゃあ薬湯にも入らないとね」
「厄除けにも効能がありますから時間までゆっくりどうぞ」
ぽんと頭を撫でられた。
「きょうは疲れたでしょうからゆっくりしてください」
いきなりそう言われて戸惑っていると森羅堂はいきなり、
「こちらを覗くようなはしたないことは絶対にしないでくださいよっ」
そう言い残すと男湯のほうに行ってしまった。
「覗くようなことってこっちのせりふなんだけど」
もしかして、森羅堂先生って見た目とか言動よりもお子ちゃまなのかな?
笑いがこみ上げてくる。
女湯のほうに入ると縁台に肌の綺麗な老女がいた。
回数券を出すと笑いかけてきた。
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