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【ワールドカップ決勝戦 日本対ブラジル 1-2 後半アディショナルタイム】
照明に照らされたピッチの上を、俺、夏田アツシは全力疾走していた。
俺はスパイクの先でボールを華麗に操ると、次々に相手選手を抜き去った。さすが俺は日本代表のストライカーだと、心の中で自分に言い聞かせる。
そしてついに、相手ゴールの目の前まで来た。絶対に決めてやると、俺は右足でボールを蹴った。
俺の右足から放たれたボールは、完全にゴールキーパーの逆をついた。入れ入れと、俺は拳を強く握る。しかし俺の願いも虚しく、ボールはゴールポストのわずかに外側を通り抜けた。
直後に試合終了のホイッスルが鳴って、俺は芝生にあおむけに倒れ込んだ。すると俺の心臓がどくんと跳ねて、全身から力が抜けた。俺の頭に、「死」の一文字が浮かんだ。
薄れゆく意識の中で、俺は自分のサッカー人生を振り返った。ワールドカップ優勝の夢は果たせなかったが、やれるだけのことは全部やった。
視界が、黒く染まっていく。歓声が、少しずつ遠ざかる。
俺のサッカー人生に、悔いはない。
俺は笑みを浮かべながら、ゆっくりと目を閉じた。
☆
意識を取り戻した俺の視界の先には、石でできた巨大な城が見えた。
ここはどこだと、俺はきょろきょろと周囲を見渡した。俺の周りには数軒の民家と、小さな畑が広がっていた。ここはどうやら、小さな村のようだ。しかし、人の気配がまったくしない。
俺はひとりで、村を歩いた。すると村のはずれに、赤いレンガで建てられた教会があった。窓は割れて、壁のレンガも大きく壊れている。その時、俺は教会の入り口に人影を見つけて、思わず駆け寄った。
入り口の扉の前にしゃがみこんでいたのは、小学生くらいの女の子だった。
彼女はかなり小柄で、汚れた上着をまとっていた。短いピンク色の髪の上には、悪魔の羽根のような黒い耳がついている。
女の子は虚ろな目で、ぼうっと空を見上げていた。どうやら俺の存在にも、気がついていないようだ。俺はその姿に幼い頃の自分を重ね合わせ、思わず胸が痛んだ。
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