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俺は、教会の傍にある木を見つめた。すると木の下に、丸い木の実が落ちているのを見つけた。
サッカーボールほどの大きさのそれを、俺は右足で軽く蹴った。木の実はまっすぐに転がって、入り口にいる女の子の足に当たった。
ようやく俺の存在に気が付いた女の子は、俺の方を見た。俺は、彼女に言った。
「お嬢ちゃん。そうやってずっと座り込んでたら、サッカーはできないぜ。ほら、立ち上がって、その実を俺に蹴り返してみろ」
女の子はよろよろと立ち上がると、右足を小さく動かして、木の実を蹴った。地面を転がった木の実はゆっくりと転がって、俺の足元に届いた。その瞬間、女の子の瞳に生気が宿った。
俺は少女に、「名前はなんて言うんだ?」と尋ねた。その子は胸の前で両手を組んで、震える声で言った。
「私は、シファ。この村に住んでいるサキュバス。この村の最後の生き残り……」
シファは両手を広げると、俺のもとに一目散に駆け寄った。俺はそんなシファを抱き締めて、右手でシファの頭を優しく撫でた。
「へっ。最後なんかじゃねえよ。俺がいるだろ」
俺の言葉にシファは大きく頷いた。そしてこれまで溜め込んでいた思いを爆発させるように、わんわんと泣き出した。
その後泣き止んだシファから、俺はこの村でなにがあったのかを教えてもらった。どうやらここは異世界の村で、サキュバスが楽しく暮らしていたらしい。
しかしこの村を統治するゴーレムが、家族や村人を城に連れ去ったと、シファは語った。俺はシファの話を聞いて、先ほど見た大きな城が、ゴーレムの城なのだと理解した。
俺は彼方に聳え立つ、ゴーレムの城をもう一度見つめた。城は真っ白な岩が何百も積み重なって建てられており、遠目から見てもかなり頑丈そうだった。
その時、俺の胸で情熱の炎が燃えたぎった。ここでシファを見捨てることは、かつての自分を見捨てることと同じだ。俺はうつむいて体を震わせるシファに、大きな声で言った。
「それじゃあ俺が、シファを鍛えてやる。それで俺とお前で、一緒にゴーレムを倒そうぜ!」
シファは心配するような表情で、俺に尋ねた。
「そりゃ私だって、ゴーレムを倒したい。でも、どうやったら強くなれるっていうのよ。そもそもあなた一体、何者なの?」
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