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俺はふっと笑うと、足元に転がっていた木の実を右足で掬い上げた。
そして慣れた足さばきで木の実を蹴ると、ももや胸の上で受け止めた。これまで何十万回も練習してきた、リフティングだ。これで最後だと俺は心の中で呟くと、右足で木の実をポーンと蹴り上げた。
シファは空高く昇っていく木の実を見上げて、「すごーい!」と声を上げた。俺は落ちてきた木の実を頭で、つまりヘディングをして受けとめた。そして頭の上で軽く跳ねた木の実を両手で掴むと、シファに向かって、ウインクをした。
「俺は夏田アツシ。28歳。サッカー日本代表のエースストライカーさ!」
それを見たシファは「アツシ、かっこいい!」と、瞳を輝かせた。俺は右手で、サムズアップのジェスチャーをした。
「俺は一流のアスリートだ。体の鍛え方は分かってる。じゃあ特訓を始めるぞ!」
俺の宣言を聞いたシファは、「分かった、アツシ。いや師匠!」と頭を下げた。
俺は「よし。まずはランニングからだ!」と叫ぶと、シファの手を取って、一緒に走り出した。
森の中を走る俺たちに、心地よい風が吹いた。シファも「気持ちいいー」と笑った。
こうして、師弟の関係になった俺とシファの、猛特訓が始まった。
☆
「ぎゃあーーー。無理むりむりむりーーーー!!!」
こげ茶色の岩肌がどこまでも続く険しい崖に、シファの悲鳴が響き渡った。この崖はシファと出会った村と、ゴーレムの城との道中に位置している。
崖の上に立っていた俺は、崖下にいるシファを見て、檄を飛ばした。
「こらシファ! 怖がらずに岩の動きを予測しろと、何度言ったら分かるんだ!」
俺とシファはこの崖を使って、攻撃の回避訓練をしている。まず俺が崖の上から岩を蹴り飛ばす。シファは落ちてくる岩の動きを予測して、走って避けるのだ。
サキュバスのシファは、戦闘で魔法を使うことできた。しかし魔力の消耗が激しいという、デメリットがあった。そのため俺は、シファの回避力を上げることで、攻撃魔法のために魔力を温存させようと考えたのだ。
シファは目の前に落ちた巨大な岩を見ると、大声で叫んだ。
「んなことできるかーーーー! くそっ。あの時、アツシを信じた私がバカだった……。アツシがこんなパワハラ野郎だったなんて……」
俺はやれやれと両手を上げると、すっと崖から飛び降りた。片膝を地面についた姿勢で、俺はシファの隣に着地した。
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