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異世界に転生してから、俺の身体能力はかなり向上していた。シファとは比べ物にならないが、俺も大きな岩を蹴ったり、崖をジャンプすることくらいは余裕でできる。
俺はしゃがんだ姿勢のまま、こちらをにらみつけるシファに言った。
「つべこべ言うんじゃない、シファ! お前は黙って、俺の指示に従っていればいいんだ!」
激怒したシファは、俺の頭に向かって、右手の拳を振り下ろした。
「そういうのがパワハラだって言ってるのよ! アツシったら、自覚ないの?」
俺は左手を頭の上に置いて、シファの拳を受け止めた。シファ、お前はパワハラどころか、俺に暴力をふるってるんだが、と俺は心の中で呟いた。
俺は「まあいい、少し休憩するか」と言うと、近くにあった岩に腰を落とした。
シファも文句を言いながら、俺の隣の岩に座った。俺は背負っていた鞄から、おにぎりとお茶を取りだした。おにぎりはシファ村にあった米を使わせてもらって、俺が自分で作ったものだ。
俺がシファにおにぎりを手渡すと、シファはそっぽを向いて、「ありがとう」と呟いた。まったく素直じゃないな、と俺は苦笑いする。俺はおにぎりを食べながら、隣のいるシファを見つめた。
「どうやらお前は、俺の人間性を誤解しているようだ。ならば、お前に語って聞かせよう。俺の雑草魂とでも言うべき、不屈のサッカー人生をな」
シファはきょろきょろと周囲を見渡すと、不思議そうに尋ねた。
「草なんてどこにも生えてないわ。ここ崖よ?」
俺は口の中のおにぎりを、思わず噴き出してしまった。
「バカもの。雑草とは、そういう意味ではない!」
俺は気を取り直して、コホンと咳をした。崖の上に広がる青空を見上げて、俺は逆境の連続だった自分のサッカー人生を、シファに語り始めた。
「俺は子どもの頃、両親に捨てられて、親戚の家を転々としていたんだ。当時の俺は、自分の人生に絶望していた。きっと初めて出会った時のシファのように、虚ろな目をしていたと思う」
するとお茶を飲んでいたシファが、俺の言葉を引き取った。
「そんなアツシを救ってくれたのが、サッカーだったってわけね」
俺はシファに微笑むと、大きく頷いた。
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