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その後藤吉には斬首が言い渡された。落ちるところまで落ちた、古臭い職人の最後に誰もが指をさして笑ったと言う。
そして斬首から数日後、少し離れた川の下流から亡骸が引き上げられた。年は十五前後、真っ青な藍の着物を着ていた。身を投げた時に川底に顏を打ったらしく顔の原型がわからず、どこの誰ともわからぬまま。無縁仏がある寺に運び込まれ、弔うことになったのだった。
「来たかい、咫」
「和尚、おひさしゅう」
「はは、堅苦しいのはなしだ。目的は、こちらの仏さんだろう」
「はい。……藤吉と、同じ場所に弔えないかと」
「あたぼうよ、任せな」
和尚とは孤児だった頃からの仲だ。すばしっこく頭の切れが良かった咫種を奉行に紹介したのも和尚である。
「和尚」
「あん?」
「なぜ、倅は父親を助けるために奉行所に自らの罪を告げに来なかったのでしょう」
「さてね。他人の考えることなんぞ他人がわかるわけないわな。一つ言えんのは、藍を通り越して真っ黒に染まっちまった心はもうどうしようもないもんだ。説法も祝詞も全部真っ黒に染めてしまう」
心。父親の神聖な場所を汚してしまったこと、息子である自分が人を殺してしまったこと、その罪を自分がかぶると父親が言い出したこと、罪を着たまま死ぬことを望んだ藤吉。何もかも何とかできたのかもしれないがどうしようもなかった、どうにかしようとする気もなかった。
「人は不器用なもんだ。こうならないためにどうにかするよりも、起きてしまったことに対してああだこうだケチをつけて酒の肴にするぐらいしか能がないからな」
「坊さんの言葉と思えませんぞ」
「だから悟りが遠いのよ、わしは。心を闇に染めぬのは、案外難しいのだ。お奉行様のようにそういったものを多く見聞きするお立場の方はなおさらだ、お前もな」
「肝に銘じておきます」
物心ついてすぐに捨てられ、裕福な人間を妬み奪ったり傷つけたりして過ごした幼少期。一歩間違えれば己もこうなってしまっていたかもしれない。
藍はとても美しい。悲しみの色、古い色、散々な言われようだが人は好きなはずだ。雲一つない、青空が。
青空はやがて夜となる。夜が来れば真っ暗だが、必ず朝が来る。しかし、二人の心には永遠に夜明けが来ないのだと知ってしまったのだ。
何故なら二人の心は闇夜に染まったのではなく黒に染まったのだ。一度染まってしまったものは元に戻らない。色落ちしないと評判だった「紺屋藤吉」は、誰よりもそれを知っていたが故に。
終わらせるより他なかったのだ。
あちこち切り傷や打撲だらけの顔に白い布を被せて、咫種は手を合わせた。
<了>
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