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「真理が見えるお奉行様よぅ、教えてくれ! 大事に育ててきた弟子たちは南蛮かぶれの無様な紺屋となった! 将来立派な紺屋に、藤吉の名を継いでくれると信じていたのに! それがなんだ、俺の布は尻を拭くのに丁度いいときやがる!」
「貴様、やはりあの晩!」
とうとう自白を得たと言わんばかりの奉行所の男の言葉など、まるで聞こえていないかのように藤吉は無視して喋り続ける。
「代々守ってきた藤吉の名を侮辱され、悪い噂まで振りまく外道どもを、どうして許せましょうや!?」
「もう良い黙れい! 牢に連れて行け!」
男の指示で藤吉は両腕をつかまれズルズルと引きずられていく。その藤吉に向かって黙っていた奉行は再び静かに問いかけた。
「己の着物が血で汚れるのは良かったのか」
その言葉に藤吉はニヤリと笑った。
「こういうことがいずれ起きるだろうと思って、あの馬鹿たちが作った着物を着ておりましたが故。薄汚い着物が血で真っ赤に染まろうが知ったこっちゃありませんな」
その後この件は奉行ではなく取り調べをしていた男が裁きを請け負うこととなった。奉行は静かに事の顛末を書にしたためていく。
「戻りました」
奉行の部屋に入ってきたのは咫種だ。取り調べをしている最中も奉行から命令を受けずっと探りをしていた。
「どうであったか」
「工房にはわかりにくいですが血の跡は残っておりました。この後奉行所が調べても見つけることができるでしょう。包丁の柄の部分にも一か所だけ血が残っておりました」
「やはりな」
「はい。わざと、ですね」
取り調べをしていた時にも出ていた通り、血の跡はごまかすことができる。何も染料を使わずともいくらでもやりようはある。それなのにそういったものを片付けた様子がまるでない。
それは、自分が下手人だと決定づけるために残してあるのだろう。
「やはり、今回の下手人は藤吉ではないか」
「はい。周囲には隠されていたようですが、藤吉には妻子がおりました」
調べてきた内容を咫種は報告する。
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