84人が本棚に入れています
本棚に追加
/43ページ
佑先輩となぞの湖1
「今度の連休、ちょっと遠出してみないか?」
佑先輩から、そんな風に誘われた。
先輩は、他部署の――いわゆる「システム屋」さんで、オレとは仕事上、直接の接触はなかった人だ。
オレたちが知り合ったのは、職場の山サークルだった。
「大学時代、ワンダーフォーゲル部」とかっていう「ガチ登山勢」も多かったが、昨今のアウトドアブームもあり、ヌルめの「山登り」のイベントも少なくないサークルで。
オレも「たまには自然の中でノンビリと」的に、気軽に参加を始めたんだけど。
数年たってみれば、ガチ勢と一緒に、何やかやと月に二回はどこかに登っていた。
佑先輩には、こんな感じで、前にも誘われたことがあった。
「サークルのイベント」としては開催しづらいから、スケジュールが合う連中だけでサクッと登ろうか……みたいな。
だからオレはすぐに、
「イイっすよ、どこですか? あ、倉山たちにも声、掛けときます?」
なんて感じで返事をしたんだ。
けど、佑先輩は、
「ああ……今回な、倉山たちを誘うのはやめとこうや」と言葉を濁した。
「?」と、無言で瞬くオレに、先輩が続ける。
「いや、場所がさ……北海道、なんだよな」
「え? ほっかいどう……っすか」
それはなあ……移動とかどうすんだろ? やっぱ飛行機とかか?
今からでも、安いチケットとか手に入るかな。
たしか、結構前から予約しないと、そんなに安くはならねぇんだよな、飛行機って。
「あ、移動は心配すんな。飛行機、俺が手配するし、金は掛からないから」
「え? いやいや、先輩。それは……」
「大丈夫だって、マイルが結構貯まってんだわ。期限もあるし、ちょうどいいからさ」
「マイル?」
「俺さ、『陸マイラー』なんだよ」
……って知らないよな。オマエ、若いし。死語だよな「陸マイラー」。
とかなんとか、先輩がボヤキみたいに呟く。
「いえ、分かります……よ」
なんだっけ、飛行機乗らないでマイル貯めるっていう、アレだよな。
「そうそう、元祖『ポイ活』みたいなヤツな」って、佑先輩はクシャリと笑った。
たしかに先輩とは、相当、歳が離れてる。
そもそも、オレはヒラで、佑先輩は課長補佐だ。もし同じ部署にいたら、オレは先輩のコト、絶対「五十嵐補佐」って「階級付き」で呼びかけてたハズだった。
「でも、先輩。なんで北海道なんです?」
それな? と、佑先輩がオレの目を見た。
「前からさ、『謎の湖』ってのを見に行きたいなと思ってて」
「謎の湖?」
「そ。冬場は雪で近づけないらしいんだよ。だからもう、この連休が最後のチャンスかなって」
オレはとりあえず「ふうん……」と頷いた。
まあ、そんなこんなで――
オレは佑先輩とふたりで、北海道の「謎の湖」に行くことになったってワケだ。
最初のコメントを投稿しよう!