佑先輩となぞの湖1

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佑先輩となぞの湖1

「今度の連休、ちょっと遠出してみないか?」  (タスク)先輩から、そんな風に誘われた。  先輩は、他部署の――いわゆる「システム屋」さんで、オレとは仕事上、直接の接触はなかった人だ。  オレたちが知り合ったのは、職場の山サークルだった。    「大学時代、ワンダーフォーゲル部」とかっていう「ガチ登山勢」も多かったが、昨今のアウトドアブームもあり、ヌルめの「山登り」のイベントも少なくないサークルで。  オレも「たまには自然の中でノンビリと」的に、気軽に参加を始めたんだけど。  数年たってみれば、ガチ勢と一緒に、何やかやと月に二回はどこかに登っていた。  佑先輩には、こんな感じで、前にも誘われたことがあった。  「サークルのイベント」としては開催しづらいから、スケジュールが合う連中だけでサクッと登ろうか……みたいな。    だからオレはすぐに、 「イイっすよ、どこですか? あ、倉山たちにも声、掛けときます?」  なんて感じで返事をしたんだ。  けど、佑先輩は、 「ああ……今回な、倉山たちを誘うのはやめとこうや」と言葉を濁した。 「?」と、無言で瞬くオレに、先輩が続ける。 「いや、場所がさ……北海道、なんだよな」 「え? ほっかいどう……っすか」  それはなあ……移動とかどうすんだろ? やっぱ飛行機とかか?   今からでも、安いチケットとか手に入るかな。  たしか、結構前から予約しないと、そんなに安くはならねぇんだよな、飛行機って。 「あ、移動は心配すんな。飛行機、俺が手配するし、金は掛からないから」 「え? いやいや、先輩。それは……」 「大丈夫だって、マイルが結構貯まってんだわ。期限もあるし、ちょうどいいからさ」 「マイル?」 「俺さ、『陸マイラー』なんだよ」  ……って知らないよな。オマエ、若いし。死語だよな「陸マイラー」。  とかなんとか、先輩がボヤキみたいに呟く。 「いえ、分かります……よ」  なんだっけ、飛行機乗らないでマイル貯めるっていう、アレだよな。 「そうそう、元祖『ポイ活』みたいなヤツな」って、佑先輩はクシャリと笑った。  たしかに先輩とは、相当、歳が離れてる。  そもそも、オレはヒラで、佑先輩は課長補佐だ。もし同じ部署にいたら、オレは先輩のコト、絶対「五十嵐補佐」って「階級付き」で呼びかけてたハズだった。 「でも、先輩。なんで北海道なんです?」  それな? と、佑先輩がオレの目を見た。 「前からさ、『謎の湖』ってのを見に行きたいなと思ってて」 「謎の湖?」 「そ。冬場は雪で近づけないらしいんだよ。だからもう、この連休が最後のチャンスかなって」  オレはとりあえず「ふうん……」と頷いた。  まあ、そんなこんなで――  オレは佑先輩とふたりで、北海道の「謎の湖」に行くことになったってワケだ。
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