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――佑センパイ 装備とかってどうしたらいいっすか?
職場のリモートワーク用のアプリ内に勝手に作った「山サークル」のチャットに、オレはメッセージを投げる。
――あれれ? ガマジュン イガラシ補佐とどっか登るのかよ?
あ、倉山だ。
――そうなんだよちょっと
と、短く応じていると、佑先輩が、サクッと一対一のチャットに切り替えてきた。
――着るモノはそれなりに準備しといて たぶんもう夜は相当冷えるから
ああ、やっぱそうだよな。
――あと山中では一泊だけだから露営でいい? ふたりだけだし荷物減らしたいし
えぇぇ? ビバークですか。
うーん、正直シンドイかも。
オレそもそも「ガチ山勢」じゃないし。
ってか、佑先輩。四十越えの身で、元気すぎやしませんかぃ?
――食料とか消えモノはあっちで調達で。飛行機で荷物になるから
――ハイ
オレが返事を打ち込むと、佑先輩は、さっさとチャットから離脱していった。
*
その後は。
連休前ならではの、押せ押せワサワサのスケジュールだったコトもあって、佑先輩とのやり取りも絶えてしまった。
で、結局。
オレは、具体的な目的地も知らされないまま、待ち合わせの羽田空港に向かう。
普通、ルートとか地図とかは、事前にパーティ内で、きっかり共有しとくモンなんだよ。色んな準備もあるしさ。天候とかも見ておきたいし。
でも、今回はふたりだしな。
佑先輩だって、連休前の忙しい時期だったろうしさ。
あんまりゴチャゴチャせっつくのもな……って。
ガラス張りに白くて明るい、だだっ広い出発ロビーでキョロついていると、向こうの方で佑先輩が手を振っていた。
「チェックイン済ませといた。預け荷物はないんだろ?」
「ハイ」
そして先輩は、オレに白い紙きれを手渡す。
チケットがわりのQRコードがプリントされていた。
そうそう。事前にチケット用のナンバーやコードも送られてこなかったんだよな。
なんか先輩、「マイルで買う」とか言ってたからさ。
普通とは違うのかなって、ボンヤリ思ってたけど。
オレに知らされてたのは、ホント、フライト情報だけで。
現段階でも分かってるのは、行き先が「新千歳」だってコトだけだった。
で、ほぼほぼあさイチの便。
「朝飯でも食っていくか?」って佑先輩に訊かれて、オレは頷く。
チョイスは「讃岐うどんのチェーン店」と「マック」。
絶妙に迷うけど、コーヒーの気分だったからマックにした。
妙に広々抜け感のある空港での「朝マック」って、なんか旅情を感じるじゃん?
*
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