最後で初めての夜

1/1
前へ
/1ページ
次へ

最後で初めての夜

 『ボク』は大学2回生。夏休みのアルバイトでデリヘルドライバーを始めた。 他人からの精神的拘束がないという理由と、決められたルールと時間さえ守れれば汗水垂らして働かなくても他のアルバイトと同等のもしかしたらそれ以上の収入があり、僅かな時間でも普段一言も会話もできないようなきれいな女性たちと一緒に狭い車内で同じ空気が共有出来るというのは、それだけでも楽しいと思えたからだ。しかし、実際はこちらから話しかけることは出来ない。それを知ったときはとても残念だった。それはもう諦めている。許されるのは相手の話に頷くか、相槌を打つだけ。 それまでは、勇気があれば店の女性とワンチャンあるかもしれないと思っていた。しかしデリヘルドライバーとしてこれはご法度なのだ。店にバレれば商品に手を出したということで、きっとクビだけでは済まないだろう。そういう事をやった人その後がどうなったかは知らないけど…… そんなこと以上にボクには勇気がないため、未だ女性と付き合ったことがない。付き合ったことがないので、女性経験もない。所謂、童貞というやつだ。まあ今の時代異性と付き合ったことがない成人が当たり前のようにいるのであまり恥ずかしくもない。でもそんな遠くない内に童貞を卒業したいと思っている。かといって、いきなり風俗というのは違う気がするのだ。 きっと他人からはそんなんだか冴えないなんて言われると思う。たしかにその通り、冴えていない。しかし、世の中冴えている人たちばかりがモテているわけではないと思うのだ。 ここまで読んでくれればわかると思うけれど、ボクは屁理屈が多い。    面接で聞かれたことは、「所有している車、いつから来られるか、時間は守れるか」だった。最後に云われたのは「その見た目をなんとかならないか」ということだった。「髪型に服装。送迎は黒子だが、乗せるのは大切な商品だ。気分良く現場に行ってもらい、気分良く帰ってもらう。そのためにはその黒子もそれなりにしないといけない」と面接の日にマネージャーに説教された。その帰り際マネージャーに美容室を紹介され、新しい服を買うことを勧められた。 今までほとんどの服装をGUとユニクロで済ませていたボクは初めてブランド物の上下を購入した。ショップの店員の言うがままに買わされた。生まれて初めての仕事服。今まで親からの仕送りの中でちびちび貯めた貯金がいっぺんに飛んでいった。ここまでする必要はあるのだろうかと自問もしたが、決めたからには頑張るしかない。 散髪も勧められた美容室で散髪をしてもらった。本当にこの髪型で良いのだろうか。基準を何処に置いて良いのかわからない。  車については文句を言われなかった。むしろそういう車ならとマネージャーからは喜ばれた。あとは、少々高めのティッシュペーパー、ウエットティッシュ、ひざ掛け、ゴミを取るコロコロ、飴やガム、ゴミ箱、スマホの充電器、傘、を用意するように云われた。最後の最後に「車内は清潔に保つように」と特に念を押された。それは大丈夫だと思う。大事な愛車だ。休みの日には丁寧に洗車をしている。 今の愛車の前はスズキの中古のアルトに乗っていた。それは免許を取って初めての車だった。それが父親が車を買い替えるということで、それまで乗っていた車を譲ってもらった。トヨタクラウン。言わずも知れた日本の高級車だ。昔は、いつかはクラウンと言ったらしいが、いきなり2台目にしてクラウン。考えてみれば贅沢な話だ。ちなみに父親は現在レクサスに乗っている。そのクラウンで何か出来ないかと思ったのがこのアルバイトを始めたきっかけの一つでもあった。  9月も中旬に入り、もうすぐ後期履修がスタートするために今日の送迎が最後のアルバイトになる。  最後の送迎は店で一番人気の『愛さん』年齢は店のホームページ上では23歳。本当だろうか、実際はもっと年上ではないか。でもこれはボクの願いかもしれない。成熟した佇まいと長い黒髪に真っ白な肌、大きな瞳が印象的な美人である。だからこそもっと大人の女性であってほしいとの願いがそう思わせるのだ。  こんな美人なら幾らでも払うというお客さんは多いだろう。だからか、実際に指名も多い。今までボクが送迎したときはすべてリピートの指名客だった。 ボクはドライバーの中でも真面目で店の女性達に一切手余計なことを言ったりしない。そのことは店の女性たちに好評らしい。やはりルールが守れない人は残念ながらどこにでもいるのだろう。そのため、マネージャーはシフトの時間が合えば愛さんの送迎を任せてくれた。  愛さんは、車の後席に乗り込むないなや、ボクが用意したペットボトルのお茶の蓋を回し開けながら、 「今日で最後なんだって」と挨拶もそこそこに語りかけてきた。 「は、はい」ボクは思わずどもった。 「なんで、辞めちゃうの」 「もうすぐ夏休みが終わりで、大学が始まるので」 「ああ、そう。まだ、大学生だったんだ……とりあえず、今日までお疲れ様」 「いえ……」 ボクはそれ以上答えられなかった。結局このバイトを経験しても女性とうまく話すことができずに終わるのだ。情けない。派遣先近くに到着すると、 「じゃあ、終わったら連絡するわね」 「わかりました」 送って行くまで愛さんとの会話もこれしかなかったが、これでもいつも以上に会話したほうなのだ。 「あ、今日のお客さん、多分延長すると思うからろよしくね」 愛さんはそういうと笑顔で車を降り、ビジネスホテルへ入っていった。 さて、ここからは自由時間。かと言って完全な自由があるわけじゃなくて、もしもトラブルがあったらすぐに対応できる様にしておかないといけない仕事に馴れるまでの間はそれだけじゃなく交通ルートを調べたりしていたがそれも今日で終わり。おかげでだいぶ首都圏の道路事情にも詳しくなれた。もうそういうことをしないと思うとやや寂しくも感じる。慣れとは不思議なものだ。 待ち時間は派遣先の近くで基本は路上駐車。もしも警察が来てもすぐに移動すれば良いし、なんせ、無料だ。車内でやることがあれば待ち時間などあっという間だ。最初はとても緊張して待っていたことを思い出す。何かあったらどうしようと。今は店の女性たちを信頼しているし、幸い客の質も悪くないらしい。ボクがドライバーを勤めているデリヘルは高級店なのだ。そして幸いこのアルバイト期間中トラブルらしいトラブルはなかった。そういえば一度だけ、店の女性がお客さんと泊まるから帰って良いと言われたことがあった。その時は直帰のアリバイを工作してマネージャーに報告した。 そういえば愛さんはボクが今日でドライバーを辞めることを知っていたな。あれだけの美人にそれだけ認知されていたというのは我乍らちょっと嬉しい。いつか愛さんのような綺麗な彼女が出来たらと思うと、妄想と股間が膨らむ。 アパート帰ったらデリヘルAVで抜こうとスマホで検索する。だめだ、ムラムラしてきた。何処かトイレ行って抜きたい……今までこんなことなかったのにバイト最終日の今日に限って。 「早く愛さん終わらないかなぁ」と、思わず声に出てしまった。やり場のない思いを繰り返して悶々としていると、雨が振り始めた。 天気予報では全くそんなこと云ってなかったのに。通り雨で終わることを期待したが、ガラスを下げて夜空を見上げると夜にも関わらず雲が厚くなるのが目に見えてわかった。 ポツポツと降り始めた雨は直ぐにバケツをひっくり返したような本格的な大降りになっていった。ボクは慌ててドアガラスを閉め、車のフロントガラスに大きな雨粒が打ち付けて丸く弾け飛ぶ様子を眺めた。 それから、後席を振り返り傘の無有を確認した。残念ながら傘は車内に残されていた。 まあ、ホテルの前で待っていてくれれば良いか……と思ったが流石にこの降り方は尋常じゃない。天気予報を確認するためラジオをつけるが呑気に洒落た洋楽が流れていたのでテレビに切り替えた。ニュースをやっている放送局を合わせるとつい先程、都内に大雨警報が発令されたらしい。そうなると気持ちが落ち着かない。先程までの悶々とした性衝動は何処かに消えてしまった。 左足を大きくゆすり頻繁にス何度もマホを確認しているとようやく愛さんから連絡が入った。 「終わりました。雨が降っているのでホテルの前で待っています」 「よし来た」ようやくボクの出番だ。どしゃ降りの中車を走らせてすぐにホテルの前に到着した。愛さんは羽織っていた白いカーディガンを雨よけにし、ホテルから小走りで出てきた。そして無意識だろう、助手席のドアを開けて座った。 「ごめんなさい、延長の連絡できなくて」 「いえ、これを……」 ボクはタオルを差し出した。これもドライバーとしての心遣いだ。愛さんは「ありがとう」と言うとボクから白いタオルを受け取った。その時少しだけ愛さんの手が僕の手に触れた。雨のに濡れたせいかとても冷たかった。 心臓の高鳴りが激しくなるのを感じた。 恋をしたわけじゃないが、女の人が触れるだけでこんなにも胸が高まるなんて。ボクの胸内の興奮はすぐに股間に伝染した。 愛さんは本当に無意識に助手席に座ったのだろう。雨に濡れた髪の毛をタオルを拭きながら時折目が合うとにっこり微笑んだ。ボクはその微笑みが眩しすぎて正視できなくてすぐに目を逸らしてしまった。逸した先が愛さんの胸元だった。ブラウスが雨で濡れてうっすら透けて赤い下着が透けていた。ボクは息が詰まる様な苦しさを覚えた。こんな時、経験豊富のヤリ慣れた男はどうするだろう。このまま誘うか。いやボクはまだドライバーだ。よしんば上手く誘えても店にバレたら御法度を冒したことで今日までの給料が貰えなくなる可能性がある。リスク回避を巡らしてなんとか落ち着こうと頑張ってみた。すると、 「可愛い」 愛さんがそう言った。いや、言わなかったかもしれない。でもボクにはそう聴こえた。すべて見透かすような声で「可愛い」と。 「どうしましょう、マネージャーに連絡して直接お帰りになりますか」ボク冷静を装ってが尋ねると、 「そうね、もちろん直帰で良いわ。さっきマネージャーには連絡しておいたし。待機所から流石に家に帰るって言ってもこの雨じゃね。電車も止まっているって話だし。」 ボクが愛さんをチラ見するたび愛さんは笑顔で微笑みながら言った。 「了解しました。でも良いんですか」ボクが再度確認のために尋ねると、 「えっ、何が」愛さんは以外にも驚いた様子だった。だってそうだろう。自分の家をドライバーに教えることになる。それこそトラブルの元になりかねない。 「ああ、大丈夫よ。あなた、真面目でしょ。そういうことはしないわ。」 とニッコリ笑った。まるで子供扱いされて、からかわれているような感じだ。でもこの笑顔で許してしまう。このまま一緒にいたら好きになってしまいそうだ。 「安全運転でお願いね。」 「は、はい……」ボクはなんとか声を振り絞るように返事をした。 愛さんから自宅の住所を教えてもらいナビに登録すると約40分とアナウンスされた。普段大きめに聴こえるナビの案内もこの大雨でかき消されるように小さく聴こえた。 大粒の雨はフロントガラスに打ち付けてワイパーを最も速くしても追いつかない。対向車が大きな水しぶきを上げるとフロントガラス全体に雨がかかり前が見えなくなる。愛さんはその度、遊園地のアトラクションを楽しむかのようにはしゃぎ声をあげて、ケタケタ笑った。 ――なんて無邪気な女性ひとなんだろう―― そんな愛さんを横目に見ているとボクも気持ちが解れてきた。 しばらく走らせると、そのアトラクションにも慣れ、愛さんはスマホを弄り始めた。SNSか、彼氏に連絡か、今日のお客さんに連絡か、お店のブログの更新か。ボクは気になったがこれは例外なく女性は送迎中は黙々とスマホに向かっている。そのおかげで運転に集中出来た。 雨が少しだけ降りを弱めた頃、今度は大きな雷が鳴った。恐らく近くのビルの避雷針に落ちたのかもしれない。その雷の音を聞いた愛さんは大きな悲鳴声を上げて驚きボクの左腕をつかんだ。雷は2度続き、その度腕に抱きついた。 ボクはジャケットを脱いで半袖シャツで運転をしていた。大雨のおかげもあって湿度が高いのでエアコンは回してあっても愛さんの手はじんわり汗ばんていた。 ――この女性愛さんはさっきまで見知らぬ男性客に性的サービスをしていたんだ。この手には男性のイチモツが握られていたんだ―― と複雑な気分になった。潔癖症的な嫌悪感と性的な興奮どちらが支配するのではなく絡まり合い溶けてゆき、新しい興奮に包まれる。ボクは腕を捕まらている間、ずっと情けないくらい勃起し続けていた。 「ご、ごめんなさい」愛さんは冷静になったのか、ボクの腕から離れた。 「あんなに大きい雷なのに動じないなんて、逞しいわ」 「今、おっかながっていたら、安全に送り届けることできないんで」ボクは精一杯考えて答えた。 ――ボクはずっと動揺している。雷じゃなく愛さん、あなたに。もう頭がどうかしてしまいそうだ―― と心で叫んだ。叫んだだけでは同仕様もない…… 中央分離帯がある大きな通りに差し掛かると、警察が通行止めをしていた。誘導をしていた警察官に話を訊くと、この先は中型のトラックがスリップをして横転したという。やむを得ず迂回路を回ることになった。愛さんも流石に疲れてきたのか、スマホも見ずに座って雨粒が流れる窓を静かに見つめている。すると、愛さんは 「ねえ、まだ時間がかかりそうなら、私あそこのホテルに泊まるわ」と唐突に指を指しした。指の先にはビジネスホテルがある。 「あなたも、これ以上迷惑でしょう。最後の仕事にこんなに時間取られて」 「でも、ボクは愛さんを送り届けるのが仕事なので……」 「私の家がアソコ《ホテル》なら文句はないでしょう」 まるで意のままに人を翻弄するが、もしかしたら愛さんは愛さんなりに気を遣っているかもしれない。 「これ以上時間がかかったらマネージャーも心配するだろうし、ね。」 店の女性たちは、直帰の場合マネージャーに連絡をする決まりになっている。これは愛さんの言うことに分がある。 「わかりました」とボクは言い、車をホテルに向けた。ホテルの駐車場は1台分空いていてそこに車を停めると、愛さんはロビーへ駆け込んで行った。この大雨でホテルも愛さんと同じことを考えている客がいるのではないかと心配したが、しばらくすると愛さんが戻ってきた。 「ツインが一部屋空いてるから、そこに泊まるわ。ねえ、あなたこれから車で帰るにしてもこの雨の中、大変だから泊まっていかない」 「えっ」ボクは今まで以上に動揺した。そしてその言葉に異様に興奮した。思考が停止し頭の中が煩悩に真っ白に染められた。 「いいじゃないの。幸い車もこうやって駐められたし」 もう何が良いのかわからない。しかし、ここは愛さんのペースに乗るしかない。確かにこれから帰るにも難儀しそうである。『渡りに船だ』と自分に必死に言い聞かせた。 ロビーで宿泊者名簿に名前を記入した。ボクは本名を、愛さんは“橋本環奈”と記入し、会計では僕が支払った。ちゃっかりしている。 「お部屋は316号室になります」とフロント係からカードキーを渡された。それをボクが受け取る前に素早く愛さんが取ると今度はエレベーター脇のボックスからガウンを2着抱えた。 「サイズはLサイズで良いでしょう」愛さんはこの状況を楽しんでいるように思えた。 「あとビール買って来てね」 ――どこまでもマイペースな人だ―― 子供のようにはしゃぐ姿に先程までの興奮はすっかり冷めてしまった。 ボクはビールを2本買い、再びフロントまで戻り歯ブラシを2本購入した。 愛さんは一足先にエレベーターに乗り部屋前で待っていた。 「早く」と急かす愛さんに女性と付き合うことこんな僅かな間でも振り回されるのかと思うとこのまま童貞のままでも良いかもしれないと一瞬考えてしまった。 ドアを開けて愛さんが開口一言、 「このホテル、仕事で来たことあるけどツインは初めてだわ。意外と狭いのね」と言ってベッドへ座り込んだ。 「さっき仕事の後でシャワー浴びてきちゃったから、よかったらどうぞ。私、ちょっと疲れちゃった。ビール飲んだらこのまま寝ちゃうかも」 愛さんにはそのつもりはないのか……愛さんのペースに乗せられながらも、もしかしたらワンチャンあると思って期待していたが、その言葉に脈がないことが解りがっかりした。 「じゃあ、お先に失礼します」 ボクはそう言うと、愛さんの死角なる位置で服を脱ぎシャワー室に入った。 車のエアコンのせいか身体は冷えていたのでシャワーの温かさが身体に沁みる。 しかしこれで何もないのは良いのだろうか。今日でバイトは終わりで、近く給料が振り込まれれば店とも愛さんとも縁が切れる。強引な性格だけど、見た目は美人でテクニックもあるだろう。現に店一番の人気デリヘル嬢だ。彼女自身、名も知らぬような童貞から初めてを奪うことぐらいなんとも思わないだろう。しかし、まだボクはデリヘルドライバーだ、アルバイトという立場でも。規則は規則である。仮に愛さんを不快な気持ちにさせるようなことがあれば、店に報告されボクは制裁を受けるかもしれない。これがもし両親や大学、友人知人に知られたら、このことは一生ついて回る…… もっとボクにこんな状況を突破できる勇気と技があれば…… 21年の人生でこんなに葛藤したことが未だかつてあっただろうか。ボクはつくづくダメな男だ……その時。シャワー室のドアが開きシャワーカーテンが勢いよく明けられた。 「ねぇ、私、さっきの雨で体が冷えちゃった」 一糸まとわぬ愛さんが入ってきた。ボクは何か言っただろうか、愛さんの肢体に釘付けになり何も言わなかったと思う。 母親の裸を最後に見たのは小学校低学年が最後だったと思う。それから大人の女性の裸を見るのはもっぱらスマホやタブレットの画面だった。今、目の前に立つ愛さんの裸はそのどれよりも美しく、艶めかしい。いやそんな簡単に言葉にできようか。今までの美の価値観は何だったのかと。愛さんの肢体から視線を逸らせないが、あまりの恥ずかしさに愛さんの顔を見ることができない。そう、自分の裸も見られているのだ。上半身はまだいい。問題は下半身である。ボクのイチモツは愛さんの身体に完全反応している。そして脈を打つたび上下に跳ねる。視姦される羞恥に耐えながらもしっかりと愛さんの裸を目に焼き付ける。 どのくらいのサイズがあるだろうか。店のホームページにはFカップと書いてある。女性の乳房は画面越しでしか見たことがないので実際の大きさの感覚がわからない。しかし、かなり大きい釣り鐘型の胸をしている。その頂きには薄茶色の突起物が上を向いている。突起物周辺に500円玉よりやや小さめに突起物と同じ色をした丸い円がほんのり色づいて、白い肌に薄茶色のコントラストがとても美しく婬猥だ。水着の写真は店のホームページで見たことがあったが、生地の向こう側をこうやって拝めるとは思ってもみなかった。 そして大きな胸から考えられないくらい細い腰に縦型に綺麗に窪んだ綣。胸と両壁を成すように美しい稜線を描くお尻から延びる細い太ももと脚。両脚の付け根は綺麗に陰毛が手入れされ一切取り払われている。その付け根の丘の中心には一本の短い線。 「そんなに驚かないで。女性の裸を初めて見るわけじゃないでしょう」 と愛さんは少しだけ恥ずかしそうに言った。恥ずかしそうに言ったのか、少なくともボクにはそう聴こえた。 「ねえ、洗ってあげようか」 「そ、そんな。自分で洗えますよ……」 「遠慮しないで。これで別にお金貰おうなんて思っていないから」 「でも……」 「もうこんなにしてるのに」 愛さんはそう言うとボディーソープを両手にたっぷり塗りながらボクのイチモツを握った。優しくというよりははっきりと掴むような握力でしっかりと握ってきた。 「あっ」ボクは思わず声が出た。愛さんは自分の身体をボクの身体に密着させて右手でイチモツを、左手て胸元をさすって乳首を指で弄んだ。 こんなにも切なさと快感の両方が全身を駆け巡るのは初めて精通を経験したとき以来だった。自分の手や道具を使う何倍の快感がイチモツに集中した。 「愛さん、ボクもう……」 「出ちゃう、早いなぁ」愛さんはそう言うと、刺激を弱める。ボクが淫楽の声を上げるたび刺激に強弱をつけ、翫ぶように焦らす。 「良い子だから我慢してね。」 耳元で囁くと耳に息を吹きかけ何度も甘噛をして舌を耳の穴に入れて愛撫を繰り返す。その度ボクは情けない声を上げて肩で息をする。 「我慢できない……」ボクが根をあげようとすると、パッと身体を離れて 「後で続きしましょう」 と息を切らすボクに囁いた。 一つのベッドでボクと愛さんは向かい合いながら全裸のお互いを見合ってる。 「やっぱりマズくないですか……」 「なんでそんなに遠慮するの。私のこと嫌い」 「そんなことないです。でもきちんと会話したのって今日が初めてみたいなものですし」 「デリヘル嬢の送迎していて、意外と貞操観念強いのね」 「そういうことじゃなくって……」 ボクはその後黙り込んだ。しかしそう言いながらもボクのイチモツは血液勢いよくが巡り激しく脈を打っている。 「あ、もしかして、初めて」 ――バレた―― 見透かしていたのか、ボクに観念させる為にそう言ったのかわからないが、核心を突かれた。ボクは小さく頷くと、 「今日のお客、全く駄目だったの。どんな事しても全く勃たなくって。延長してまで粘ったんだけどね。申し訳なく思っていたみたいだけど、なんか私が不完全燃焼ね。」 「でも、規則じゃドライバーとそういうのはダメだって」 ボクがそう言うと今まで優しく語りかけていた愛さんだったが、 「規則、規則うるさいわね。気持ちよくなりたくないの。私だってプライド持って仕事しているのよ。それに女だってシタいときくらいあるの。それが客がインポの役立たずの挙げ句、誘ったドライバーが今度は意気地のない童貞なんて今日は本当にツイないわ。」 と怒って、ベッドから降りて冷蔵庫を開けると先程買ったビールを取り出しプルタブを開けると一気飲みした。もう一本取り出して「飲め」とボクに差し出した。飲むつもりはなかったがボクは言われるがままビールを飲み始めた。僕がちびちび飲んでいる間に愛さんは飲み干してゲップをした。とても先程まで艶っぽい愛さんとは思えないガサツな女性に変身した。 「なんか乾いたツマミがほしかったな」 こんなセリフまで出たら、おっさんだ。ボクはそのギャップに若干引いた。 「ねえ、私のこと本当に抱きたいと思わない」立膝をつきながらボクに話しかけた。全裸なので勿論愛さんの秘部は丸見えだ。ぷっくりと肉弁はやや赤みがかって、艷やかに光っていた。ボクはなるべくそこに目を合わせないように努めた。 「正直いえば、抱きたいです。でも……」 「でも、何」 愛さんはボクに顔を近づけて来た。 「そうね、初めての相手が玄人女なんて嫌だよね。そりゃそうだ。わかる。ごめんね」 と今度は謝ってきた。ボクは意を決して、 「もし、愛さんと恋人になれたら、抱きたいです」 「生意気ね。童貞のくせに」 「ごめんなさい」 「許さないわ。私のことバカにしてる」 「そんなことないです。愛さんが玄人プロとかそう言うんじゃなくて、ちゃんと恋人として抱きたいんです」 「どういう意味」 「もし、今日、今夜だけの関係でも、愛さんを愛したいから……」 これがボクの本音だ。 「そう、カッコつけてちゃって。わかったわ。じゃあね……」 愛さんは髪の毛を腕に巻いたゴムで縛り上げると、 「私ね、“はるか”っていうの。春に香るって書いて春香」 「えっ」ボクは突然の暴露に驚きの声を上げた。 「本気で抱きたいんでしょ、恋人として。だったら私も本気で抱いてほしいし、“愛”じゃなくて本当の名前で呼ばれたいわ」 「は、はるかさん……」 「うん、いい感じ。今度は呼び捨てにして」 「春香……」 「うん。ねえ、今度はキスして」 ボクはどうしてよいか戸惑っていると、 「キス、したことないんだ。しようがないなあ」と愛さん、もとい春香さんがボクの唇にキスをした。春香さんの柔らかい唇がボクの唇に触れるとイチモツが再び強く反応した。春香さんはボクの唇に舌を這わせてきた。ボクも負けじと春香さんの舌に舌を絡ませた。 ――キスがこんなに気持ちいいなんて―― まるで脳みそが溶けてしまうような感覚に襲われた。全身の力が抜け重力から開放されるような感覚がわかってもらえるだろうか。春香さんの唾液がボクの口中に伝わってくる。初めてのキスの味はやや酸味が強くアルコールの匂いがした。このままずっとキスをしていたい。 「ねえ、おっぱいも触って」 春香さんが口を離すと、そうねだってきた。 ボクは両手で手のひらからはみ出んばかりの大きなおっぱいを掴んだ。 「あん、痛いわ。もっと優しく」 「あっ、ごめんなさい」 「謝らなくていいから、ソフトタッチから少しずつ強くして、それから乳首も弄るのも忘れないで」 ボクは春香さんにいわれるように最初は優しく、少しずつ様子を探りながら乳房を触った。春香さんの呼吸が荒くなってくると同時にツンと尖った乳首が硬くなるのがわかった。ボクはその固さに興奮を隠せず指で摘んだり弾いたりして遊んだ。 「その調子よ。とても上手」春香さんはため息と僅かな喘ぎ声を漏らしながらレクチャーしてくれた。 「春香さん、おっぱい……」ボクは恥じらいながらねだってみた。 「男って本当におっぱい好きね」 「……はい」ボクは否定しなかった。 「いいよ」 ボクは右の乳首から交互に吸い付いたりしゃぶった。春香さんは吸われるのが好きらしい、吸うたびに僕の顔に乳房を押し付けた。 春香さんは、ボクが春香さんの胸に夢中になっていると、跳ね上げるイチモツを握ってきた。 「すごいわ。シャワーのときよりも硬い。しかもこんなに大きいの久しぶり」 そう言うと、春香さんは右手で上下に刺激を繰り返すと左手でイチモツの頂きから溢れるカウパー液を手のひらで伸ばし翫んだ。 「エッチなお汁でヌルヌル」春香さんは卑猥な言葉で表現すると僕のイチモツは強くその言葉に反応した。 「ダメ、逝きそう。出そう」 「出ちゃうの」 「……はい」 「何が出ちゃう」 「え……」 「言ってごらんなさい」 ボクは恥ずかしさのあまり声が出ない。 「言わないと止めちゃうよ」 止めてほしくない。切なさが込み上げてくる。 「せ、精液」 ボクは白状した。 「ふふ、よく言えました」 春香さんはそう言うと両手で優しく激しく摩擦を繰り返す。 自分の手とは違う柔らかい手のひらからの刺激。玩具のゴムの感覚とも違う。人の血が通った手のぬくもりは例え、冷えきった手でも優しさという暖かみを感じると知った。次第に早くなる春香さんの刺激にボクは、 「出る出る出る出る」 「我慢しないで出しちゃえ」 ボクは春香さんが言うとおり、我慢できずに春香さんの手のひらに盛大に射精した。 ボクは気を失い一瞬天国がちらついた。大きく深呼吸をして、額にかいた汗を手のひらで拭った。 春香さんは僕の精液がべっとりとついた自分の指先を舌で舐めて味を確かめていた。 「苦甘い。」そう言うと、「自分の味舐めてみる」と指を差し出したが、ボクは丁重に断った。「残念ね」と春香さん言いながらは残りの精液も丁寧に舐め取った。射精で萎えていたボクのイチモツは春香さんのその行為で再び硬さを取り戻した。 「元気ね」 そう言うと、呆然としたボクをよそに、今度は口でボクの精液まみれのイチモツを愛撫し始めた。もう春香さんにすべてを委ねるしかなった。 ――なんという快楽だろうか―― 羞恥と快楽が溶け合い再び快楽の渦を作り出す。漫画や動画では知っていたが現実の行為はこうも生々しくいのか。春香さんの舌がイチモツに絡みつくたびボクはうめき声をあげてしまう。何度も何度も。先端は射精の余波で敏感になっていて腰が引けて力が入らない。 ――このまま再び射精し快楽の波に呑まれるのか―― 「は、春香さん……」 春香さんは上目遣いでボクに答える 「今度はボクが春香さんを気持ちよくさせたい」 ようやくイチモツから口を離した春香さんは 「初めてのくせに出来るの」と挑発した。 「ボクだけ気持ちよくなるのは不公平だから……」と精一杯格好つけた。 「それもそうね、生意気さん」 これから春香さんを責め立てたいのに、完全に主導権を握られていた。 「じゃあお願い出来る」と身体を起こし自分の脚を開いた。 「無理しなくて良いのよ」 「上手くできるがどうか……」 「じゃあね、指で開いてみて、わかる」 「はい……」 春香さんは小さい子供に手ほどきをするように優しく自分の秘部をボクに触れさせた。 ねっとりと密着した生温い壁を開くと小さな桜色のクリトリスが顔を出し、その下にはじっとりと湿った粘膜の洞窟の入口が顔を出していた。 ボクはクリトリスを指先で触れてみた。自分のイチモツの先端と同じような感触がした。固めのグミや栄養が行き渡った多肉植物の葉のような感触はとても新鮮だった。 ――女の人も勃起をするんだ―― 話には知っていたが、触るたびこの感触が楽しい。そして春香さんはボクが突起を指で愛撫するたびに小さく身体を逸らせ、美しい喘ぎ声を聴かせてくれる。 ボクは面白がって何度も指で優しく小突いた。 そしていよいよ下の洞窟への探検を始める。春香さんも期待に肩を震わせ白い肌は上気しほんのり赤く染め上げている。 「恥ずかしいわ……」 散々自分で誘って導いておきながら、なんて可愛いことを言う。ボクはますます興奮した。 中指をゆっくりと洞窟の中に差し込むと春香さんは大きく声を上げて身体を捩った。 「そう、もう少し奥まで」 ボクはその要請に答えるべく、さらに深いところまで指を差し込んだ。ヌルっとした粘膜が指を包み込む。 「優しくして。デリケートなところだから」 AVのような乱暴な愛撫は実際ではかなり痛いと聞く。粘膜は皮膚に守られているわけではないのでそうだろう。ボクは興奮する気持ちを抑えながら静かに優しく指を洞窟の内側を撫でた。 「本当に初めてなの」 「何度も言わないでくださいよ」 「結構上手だから……」 春香さんから褒められるなんて、素直に嬉しい。 「本当に春香さんが初めての女性ひとです。」 「そう。でも初めても今日で終わりだもんね……本当にいいの私で。成り行きでセックスしちゃって。」 春香さんにためらいが感じられた。 「今は春香さんはボクの彼女だから」 「そ、そうね。」恥ずかしいのか、春香さんは顔を赤く染め上げながら「お願い、続けて」と言った。ボクは指を春香さんの洞窟へ何度も出し入れした。その度、身体を捩らせ何度も小さく跳ねるように腰を浮かせた。 「口でしても良いですか」ボクは次の要求をしてみた。一瞬ためらいを見せた春香さんだったが、 「大胆ね。いいわ、お願い」と快楽にのぼせた顔で答えた。 ボクはそっと顔を近づけると磯の香りに似た匂いがした。生臭いが嫌ではない。 突起にキスをするように口で包み込んと舌で転がした。 ――少し塩っぱい―― それに若干苦味も感じる。今まで味わったことがない未知の味にボクは興奮して春香さんの反応を確認するのも忘れ夢中で突起をむしゃぶった。敢えて例えるなら海藻のような風味だ。もっと深い味わい複雑な味がした。夢中で愛撫をしていると春香さんがボクの頭を抑えて口から秘部を離さないように固定してきた。 「もっと、もっと。もう少しだから……」 大きな声で懇願していた。ボクはその要請に答えるように更に夢中で愛撫を繰り返した。 春香さんの秘部からはおびだだしい量の汁が溢れ出てボクの口だけでは受け止められないくらになっていった。当初した味や匂いがなくなって不思議なことに無味無臭になった。しかし、それが春香さんから分泌されていると思うととても美味しく感じられた。 春香さんは大きな喘ぎ声を出しながらボクの頭を更に強く抑えた。声が止むと痙攣をしてぐったりとした。 ――逝かせたんだ―― 肩で息をする春香さんはボクの顔を見て恥ずかしそうに微笑んだ。 「意外とやるじゃん」 「あの……もういいですか」ボクは我慢の限界だった。夢中で愛撫したが、それ以上にボクのイチモツは置いてきぼりなって切なかった。跳ねる度にカウパー液が糸を引き滴り落ち、ベッドのシーツに染みを作ったいた。春香さんが逝ったときに作った染みほどではなかったが。 春香さんは自分の鞄からコンドームを取り出すと手際よくボクのイチモツに被せた。まるで職人芸のような手捌きだった。 「あなたの大きいからゆっくりね挿入いれてね」自動車教習所の女性教官が駐車指示をするような口ぶりで導こうとしている。今まさにボクは童貞を卒業しようとしているのだ。何度かイチモツで春香さんの秘部を何度か擦り撫でると、春香さんはイチモツを指で抑えながら自らの秘部に導いた。洞窟の壁が圧迫してなかなか中に挿入侵入することができない。ボクは何度も腰に力を入れて奥に入ろうとすると、その度押し返されるのだ。 「だから優しくって……私もセックスするの久しぶりなのよ……」 そういうと春香さんはハッとした顔をしてボクの顔を見た。 「本当よ……今、彼氏もいないし。ちょっと恥ずかしいこと言わせないで」と両手で顔を抑えた。 「かわいい……」ボクは思わず呟いてしまった。 「もう……バカ」一瞬春香さんの身体が緩んだ気がした。その隙を突いて、文字通り奥まで突いた。イチモツ全体が春香さんに包み込まれると今まで感じたことがない多幸感に支配された。密着ではない、今、春香さんと繋がっているのだ。ゴム越しながら一番密接に繫がっている。しかし、このゴムの壁は物理的には薄いがとても分厚い壁のようにも思えるが、今はそんな我儘よりもひとりの女性と繋がられる多幸感でいっぱいなのだ。 少しずつイチモツに肉壁が馴染んでくると、 「動いて」春香さんは切ない顔をしてねだってきた。ボクは頷くとゆっくりと腰を動かした。それまでの手や、口と全く違う快感が包み込む。眼の前では春香さんの大きな胸がボクの腰の動きに合わせて上下に揺れている。呼吸は普通にできているのに脳に酸素が十分に行き届かないような感覚に陥る。それが嫌な感覚なのかと問われたらそうではない。きっと快楽によってすべての全身の器官がバグっているようだ。 少しずつ腰を早くリズミカルに振ると春香さんもそれに合わせ自分の秘部をボクの股間に這わせるように腰を動かす。お互いの指と指を絡ませると「もうすぐ逝きそう」ボクが言うと、春香さんは何度もそれに頷きながら 「私も。お願いキスして。」と再びねだってきた。ボクは再びキスをすると春香さんは自分の腰を最大限にボクの腰に密着させて来た。お互いの呼吸と腰の動きが早くなる。 ボクは腰を振りながら何度も射精感に耐えようとしたが、それに抗うことが出来ず、春香さんの中で果てた。一方で春香さんはボクの背中に爪を立てて両脚で挟み込んで強くボクを抱きしめて震えていた。タイミングが同じだったかは定かではないが、春香さんはボクが作り出した快楽の波に乗ることができたのだろう。その後そのままの余韻を引きずりながら、汗を流すはずのシャワーを浴びながら獣以上に激しく、はしたなく交わった。 シャワー室での行為を終え、ボクはクタクタになりベッドで眠り込んてしまった。 目が覚めると、春香さんの姿は無かった。鏡のまえの小さな机には一万円札が置かれていて、その脇にはホテルのメモ帳に 「ありがとう。ホテル代です。お釣りでご飯でも食べてください。今日までアルバイトお疲れ様」 と添えられていた。 部屋の中は綺麗に片付けられており、それまで春香さん、いや……愛さんがいた形跡がないくらいになっていた。ボクは自分の服を綺麗にハンガーに掛けた記憶がなかったが、シワがきれいに伸ばされていた。ただ、ボクには愛さんを抱いた余韻だけが残っていた。 どこまでも用意周到に愛さんは自分がいた形跡を消していた。ボクのスマホの履歴、アドレスまでも彼女の連絡先は消えていたのだ。もしかしたら最初から彼女は居なかったのか……そんな疑念さえ浮かぶようになった。しかし、確かな実感は残っている。 チェックアウト時にフロントに確認をしたが、どうも愛さんがホテルを出ていった後にスタッフが入れ替わっているようで確認が取れなかった。「防犯カメラを確認しますか」と問われたが、なにか被害があったわけではない。置き手紙という証拠もある。ただ、もう少し二人で恋人として余韻を楽しみたかった。外は、深夜に雨が上がり、道路には大きな水溜りを作っていた。 やはり、彼女の引き際の美しさは玄人プロだったのだ。 それから一週間が経過した。店からは給料も振り込まれ、デリヘルドライバーのアルバイトは完全に終了した。そして明日からは後期履修がスタートする。ひと夏の経験とはよく言ったものだ。全くその通りの夏休みとなった。ボクはこの一週間その余韻に浸りながら生活を続けた。それも今日で終わりだ。 ――いや、終わりにするのはまだ早い。そうだ、ナビだ―― 慌てて着替えて車に乗り込みナビの履歴から彼女の自宅を呼び出した。しかし、こんなことをすることに意味はあるのだろうか……これではストーカーと変わらない。何故彼女が自分の連絡先をブロックではなく消したのか、冷静に考えてみた。彼女はもう思い出の中の女性なのだ。玄人相手にボクのような素人がまともな恋愛ができるはずがない。それに彼女はボクになんかで到底満足できないだろう……そう思うとそっとナビの履歴を消去した。 考えてみれば、愛さんには会いたいと思えば会える。しかし春香さんとして会うことはできないだろう。 これで本当にボクのひと夏の経験が終わった。 最後で初めての夜 おわり 最後に “小説の神様”の異名を持つ、志賀直哉はその異名を手にした代表作、小僧の神様において、『小僧があの客の本体を確かめたい欲求から番頭から番地をと名前を教えてもらう。そこへ行くと人の住まいはなく、小さい稲荷の祠があった。しかし、こう書いてしまうと小僧に対して少し残酷な気がして来た。それゆえ作者は前のところで擱筆する事にした(妙訳)』と書いた。 著者は初めて短編を書く上オマージュとしてこの案を取り入れようと、同じようなことをを考え、愛=春香の自宅に“ボク”を向かわせて、その住所には住居がなかったという風にしようと思ったが、これはあくまでひと夏の経験の物語なのでやめようと思った。 “ボク”にとって童貞からの卒業は、昨日までの勇気がなく冴えない青年からの脱皮という意味も込めたのでやめたのだ。 “ボク”が後期履修で新たな出会いがあることを期待して。
/1ページ

最初のコメントを投稿しよう!

18人が本棚に入れています
本棚に追加