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「眠れねぇ」
暗い部屋。
かろうじて都会の明りが窓から差し込む程度。
そんなホテルの一室。
俺は天井を見上げてぼんやりとした頭で、そんなことを呟いていた。
視線だけを隣に送ると、ベッドで女が裸で隣で寝ている。
俺の腕に抱きつくように自身の腕を絡ませ、静かに寝息を立てていた。
「………」
さっきまで体を合わせていたはずなのにまったく顔を思い出せない。
真っ暗な部屋なせいで見えないのも拍車をかけていた。
まぁ、でも。
少なくとも、まったくタイプでは無いことだけは覚えてる。
相手は、俺が呼び出したらすぐ来たけどな。
過去に一度会ったことがあるだけの浅い関係。
大して知りもしない癖に、俺の顔が好きだからってだけで。
「頭悪そうな女」
そんな今の状況を確認してすぐに絡みつく腕を振りほどくと、上半身を起こした。
人間ってやっぱり醜い。
何かを忘れたいとき、人生がめんどくさくなった時。
対処法なんて色々あるはずなのに、てっとり早く解決できるのが体なんだから。
でも……同時になんだか虚しい。
終わったら終わったで、なんでこんな一瞬の快楽のためだけに時間を無駄にしたんだろうという後悔の方が大きくなる。
「たばこ……」
ため息をつくと、いつも吸っている銘柄を探す。
だけど、箱を振るもちょうど切らしてしまったみたいだ。
「さっきファミレスで吸ったのが最後だったのかよ」
だるい表情で悪態をつきながら空箱を投げる。
いつもはシュート決められるのに、今回はごみ箱の縁に当たって変な方向へ飛んで行った。
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