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「長居するつもりはなかったんだがな……」
夜半、みくが縁側にから夜空を見上げていると、ようやく村の老爺たちから解放された
紺色の着流し姿のカイトスが頭を掻きながらやって来たのだった。
「でも、楽しそうでした。このまま、ずっと村に住んじゃえばいいのに……」
囲炉裏を囲んだ土間には、おばさんの話を聞いて駆けつけてきた村の長や、酒が回った老爺たちが、宴会の後片付けもそのままに、各々がイビキを掻いて雑魚寝をしていた。
さすがに女性や子供は連れて帰ったが、それでも老爺たちで土間は足の踏み場もなく、溢れ返っていた。
居場所がなくなり、みくは縁側に逃げてきたが、宴会から解放されたカイトスも同じ理由なのだろう。
やれやれと、カイトスは肩を竦めると、みくの隣に座ったのだった。
「そんなわけにはいかない。おれだけ幸せになったら、死んでいった部下や仲間に申し訳ないだろう」
あの後、土間でお茶を飲んでいると、おばさんの話を聞いた村人たちが押し寄せて、誰もが島の英雄であるカイトスを温かく出迎え、噂になっていた山に出る鬼は、カイトスのことだったのかと一安心したのだった。
その後、女たちが食材を、男たちが酒を持ち寄って、そのままみくの家と家の庭は宴会会場となったのだった。
村の女たちが夕飯の支度をしている間に、男たちの勧めで、カイトスは風呂に入って、身体を流した。髪も洗い、髭を剃った。
着流しはみくの家にあった父が着ていた紺色の着流しに着替えてもらい、下着は近所に住む老爺が持ってきた新しいものを着てもらった。
カイトスの着付けは老爺たちに任せ、みくも怪我した肘を手当てして、薄桃色の着物に着替えたのだった。
隣に座って肩を落としたカイトスをよく観察する。
山で会った時も思ったが、改めて身綺麗になったカイトスを見ると、月明かりを体現したかの様に美しい顔立ちをしていた。
帝国人の父親と島の母親の間に産まれたからだろうか。
両者の血が混ざった白皙の顔をしていたのだった。
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