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(ずっと、我慢していたんだ……。部下や仲間に先立たれて、一人残されて……)
そう考えたら、どこか遠い存在だったカイトスが、急に身近な存在に思えてくる。
騎士であり、島の英雄と呼ばれていても、実際はみくたちと何も変わらない人間なんだと。
その背を撫でながら、「大丈夫。貴方を受け入れるから」とみくは何度も繰り返したのだった。
やがて、嗚咽が収まってくると、顔に息がかかる距離まで、顔を近づけてきたカイトスが濡羽色の両目を細めて囁いてきたのだった。
「深いところまで慰めてくれないか?」
「深いところ?」
「もっと奥深くまで慰めてくれ。君の慈愛で」
そうして、カイトスはみくの桜唇に口づけると、貪るように舌を絡めてくる。
息苦しくなると、一度口を離して、また絡め合う。
「罪深きおれには、こんなことをやる資格はないとわかっている。けれども、今はどうして君に慰めてもらいたいんだ。君の甘い優しさに、この身を委ねたくなる」
「委ねてください……わたしを貴方が生きる理由にしてください。貴方が生きてくれるなら、わたしもこの身を委ねます」
荒い息を繰り返して、再び、舌を絡め合うと、頭の中が蕩けてしまうような、これまで感じたことのない感覚に襲われる。
簪を外されて、黒髪がパサリと胸元に落ちてくる。
帯に手を掛けてきたカイトスに、みくは身体をーー全てを捧げたのだった。
やがて、朝日が昇る頃には、島の娘と敗走の騎士は奥深くまで繋がった。
縁側から布団を敷いた和室に場所を移した二人が何をやっていたのか。
それを知っているのは、熱を帯びた互いの身体と、乱れて脱ぎ散らかされた着物だけであろう。
この日から、敗走の騎士は、贖罪の騎士へと変わり、新たな人生が始まったのだった。
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