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取り立てて格好良くも不細工でもない容姿。真ん中くらいの成績。平均ど真ん中くらいの背丈に、良くも悪くもない運動神経。 特筆すべき取り柄もなく、かといって超不器用なわけでもない。よく言われるのは、なんか豆柴に似てるねという喜んでいいのかどうか分からない謎の評価。 それはまぁ置いといて、そんな何の変哲もない俺のハッピー平凡ほのぼのライフにはひとつだけ、特異な点があった。 それがこの…あ、重たっ。 「…ねっむ」 「毎日きちんと夜九時には寝る超健康優良児が何を言ってるんだ」 「…うん」 「あ、聞いてないね、ちょっと起きて!ちゃんと歩いて」 「あったか…」 「起、き、ろ!」 「んぁ…?」 それがこの、歩きながら人の肩に頭を凭れ掛けて眠ろうとする大変器用な友達、千翔星くんである。歩きながら寝るだけでもすごいのに、ちゃっかり俺の肩を枕にするなんてマジで器用すぎる。それはともかく。 彼とは別に幼い頃からの付き合いという訳でもなく、普通に中学で仲良くなった。 家が近いってことと、名前に同じ漢字が入ってるってことで意気投合した。多分。実際は俺だけが舞い上がってただけかもだし、こいつの方はどう思ってたのか知らんけど。 それから少しずつ話すようになって、やがて生活能力が低いらしい彼の世話係を何故か俺が引き受けることになった。授業中寝ている彼を起こしたり、朝も家まで起こしに行ったり、クラス替えで教室が離れても放課後彼を起こしに行ったり…。 こいつ寝てばっかだな。だからそんなに背が高いの?寝る子は育つって立証しにいってんの?ロングスリーパーだなぁとは思うけど、逆にいつ起きてんだろうとよく思う。 いや、あるな。彼がはっきり目を覚ましている時が。 いつもは眠たげにうとうとしている目が開いて、欠伸の涙ではなくもっと別のもので瞳がぎらりと光る瞬間が。 それがまぁ、まさにケンカしてる時なんだよなぁ。流石に起きるよな、うん。 こないだの裏庭の件もバッチリ目開いててちょっとびっくりした。まだ見慣れない、あのカオ。 正直あんまり好きじゃない、ケンカ中の千翔星。多分すんごい落ち込むだろうから、そんなこと絶対言えないけど。 でも、別にヤンキーって訳でもないのにな。目立つせいかな。俺が彼と知り合った中学の頃からは既に、彼はよく色んな人に絡まれてたっけ。 他人の恋人を寝取っただとか、変な色目を使うなだとか。俺が聞いた因縁はどれも彼のせいではない、ただの言いがかりばかりだったけれど。 口下手で感情表現が苦手らしい彼はいつもそれを無視してやり過ごしていたらしい。興味が無かったとも言う。それでも納得する奴ばかりではなくて…結局今に至る、と。 全面的に彼が悪いとは言えないし何なら相手が悪いことのが多いし、複雑極まりない。俺がもっと強かったら何か違ったんだろうか。強いって、どういう意味で? 分からん。分からんけど、ひとつ確かなのは俺は千翔星を嫌いじゃないってこと。寧ろ好きだ。 だから、心配なんだよなぁ。 「はぁ…」 「………チョコレート、食べる?」 「もらう。んぐ」 何も考えてないのかわざとなのか、指先くらいのチョコの欠片をポッキーゲームのノリで食べさせるもんじゃないと思う。 ちょっとふにって唇当たった。端っこだけど。まったく…この子ったらもう。 「おいしいよねぇ」 「甘い」 道端で見ていたらしい生徒がきゃあきゃあ騒いでる。相変わらず興味が無さそうな彼は、また箱からチョコを取り出していた。 チョコを加えたまま俺に顔を近づける彼に、もういらないって言ったら何でかちょっとしゅんとされた。そんなに甘いの共有したかったんかな。甘えん坊さんめ。
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