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彼女みたいな夢見がちな女性には、こんな説明でも充分だろう。実際、彼女も自分の最期の姿がどんなものであったのかは覚えているはずだ。帰って来た時の派手なワンピースの姿でありながら、まったく汚れていないし苦しくもない。そして、この謎の草原。
自分は死んで天国に来たのだと、そう考えてしまった方が納得できるだろう。
「そう、あたし、死んだの……」
はあ、と彼女は深くため息をついた。
「神様って、ものすごいイケメンかなと思ってたけど違うのね。真っ白に光ってて、あなたの顔も見えやしないわ」
「仕方ないですよ、それは。僕は今あなたの目の前にいるように見えて、実際は違う次元にいるのですから。姿がはっきり見えないのはどうしようもないのです」
「それは残念だわ。……私、ろくな人生じゃなかったけど、一応天国には来られたのね。まあ、悪いことしたわけでもないから、地獄に落とされたらクレーム言っていたところだけど」
「あはは」
僕は曖昧に笑うしかない。
彼女が会社で、若い女性社員をねちねちといじめていたこと。さらには成功した若い小説家、イラストレーター、作曲家、芸能人、政治家――などなどに嫉妬して、ありもしないことを掲示板に書き連ねて誹謗中傷で訴えられかけていたことを僕は知っているのだから。
実際、鬱になったり自殺したりした人もいたのだが、彼女にとってはそれさえも“大したことじゃない、他のみんなもやってたんだから”でしかないのだろう。
彼女はずっと、自分は被害者だとばかり思い続けてきたはずだ。
学生の頃好きな男にフラれたのも。
美術部で、自分の絵だけが一向にコンクールで入選できなかったのも。
ツイッターが炎上したのも、仕事でうまくいかないのも己の功績が何一つ認められないのももろもろ全て。誰かに人生を邪魔され、壊されてきた結果だとばかり思っているはずである。
そうして彼女が子供の頃から逃げ込み続けてきたのが、メルヘンチックな少女漫画の世界とライトノベルの世界。自分が最高の美少女になって、イケメン達に愛されて、夢のような幸せな人生を送る。――そういう願望を持つことは、自由だろう。人に迷惑をかけさえしなければ。
「正確には、ここは天国ではありません。貴女はこれから、この世界に転生するのですから」
まあ、切り替えよう。彼女のように“自分のやってきたことを棚上げして、人生に不満ばかり持って死んだ人間”は珍しいものでもなんでもないのだから。
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