百日後の楽園

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「此処には、貴方が望むすべてのものがあり、すべての夢が叶います。条件を満たした方をこの楽園に招き、その希望を叶えるのが私の仕事なのです」 「すべてのもの?……何でも叶うの、私の夢が?」 「ええ、勿論。例えば……貴女を、望む姿に生まれ変わらせることも可能です」 「本当に!?」  じゃ、じゃあ!と彼女は目を輝かせた。 「私……少女漫画の、“永遠のリーテル”の主人公みたいな姿になりたいわ!長いピンクの髪で、目が宝石のように青くて、誰もが振り返るような美少女で……」 「ああ、説明しなくても大丈夫。貴女は思い浮かべるだけでいいのです。私がそのイメージを読み取って、その姿に肉体を構築して差し上げましょう」 「わかったわ!」  うっとりと目を閉じる、太った中年女性。僕はそっと、自分の前にデバイスを表示させ、キーを打ち込んだ。すると、みるみるうちに彼女の姿が変化し始めたのである。キラキラとした白い光がゆっくりと消えて行き、その代わりに現れたのは花柄のワンピースが似合う可憐な少女だ。  ピンクの長いツインテール、白皙の頬。少女漫画、永遠のリーテルの主人公である“リーテル・シュバイツ”そっくりの、十七歳くらいの女の子である。 「どうぞ、終わりましたよ」  僕は彼女の肩を叩いて、手鏡を取り出した。目を見らいて鏡を覗いた彼女は、きゃあ!と黄色い声を上げる。さっきまでのダミ声とは違う、鈴が鳴るような可愛らしい声だ。 「嬉しい!ありがとう、神様!」 「どういたしまして。……さて、この草原を少し歩くと、ぐるりと草原を囲む壁状の石の建物に行き当たるでしょう。その建物の中には、今は貴女しかおりません。貴女はその建物の、好きな部屋を使うことができます。友人、恋人、家族……誰でも好きな人を想像、あるいは捏造し、呼びだすことができます。ただ頭でイメージするだけでいい。彼等はみんな、貴女が思うような姿と性格で出現し、貴女が思うままに接してくれるでしょう」 「まあ、まあ、まあ!本当に楽園のようだわ!」  彼女はうっとりと頬を染める。きっと、憧れた少女漫画のヒロインのように、イケメン達に愛される自分を想像しているのだろう。  同時に、自分が大嫌いだった女達を奴隷にしたり、彼女らを自分の信者にすることも簡単であると気づいているかもしれない。  いずれにせよ、彼女が願えば全て叶うこと。  此処は、彼女の為だけの楽園なのだから。
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