いつか解凍される痕跡

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*  あの日から、僕と彼女は度々約束をして会うようになった。初めて見た時の印象と変わらず、彼女は純粋で理知的だ。しかし、浮世離れした天然な一面を見せることもあり、それがますます彼女を魅力的にした。彼女は二十七歳だと言っていた。僕より一つ年上という計算になるが、大学生だと言われても違和感が無い。とにかく僕は彼女に夢中になった。  希望、切なさ、期待、驚き。彼女といれば、新しいフィーリングが次々と湧き上がってくる。生きていればこんなにも素晴らしい体験ができるのか、と以前の僕が聞いたら鼻で笑いそうな考えすら、自然に浮かんできた。  彼女と街を歩いていた時、ふと周囲が暗くなったことがあった。僕は咄嗟に彼女を抱きしめて地面に倒れこんだ。作業中の建物から、何か看板のようなものが降ってきたのだ。幸いにもそれはきわめて軽い素材であったため、二人とも怪我はなかった。その時僕は、彼女に出会った時と同等の驚きを感じた。自分にも誰かを守ろうという意思があったのか、と。 * 「鈴木さん」  プレゼントを買って駐車場へ降りたとき、女の声に呼び止められた。その名前の指す人物が自分であると認識するのには、少し時間がかかった。
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