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「……ああ」
なんの感情も無く、振り返ったはずだった。しかし、自然と声が低くなっていたことに気がついた。
「何?その態度」女は目を見開き、驚いた様子だった。「やっぱり騙していたのね」
女は顔色を変え、激昂した。駐車場に声が響き渡る。
以前の僕は、確かにこんな態度を取らなかった。
以前の僕なら、怒りで顔を赤くした女のことも、適当な振る舞いで簡単に丸め込むことができただろう。
だが、今の僕は口角を上げることすらできない。否、しないのだ。そんなことのために体力を使うのは、面倒だし無駄だと感じられた。
「優しくて、紳士で、笑った顔もかっこよくて……。それなのに」
「あまり大きな声を出さないでくれるかな。目立つから」
「うるさいうるさいうるさい」
不快さに思わず眉をひそめる。こんな場所で感情を爆発させるなんて、全く愚かだ。彼女ならばこんなことはしない。まず、感情をコントロールする。最大の利益を得られるように、もしくは最小の損失で済むように、計算をする。それから、淡々と事を運ぶはずだ。
「何か言ったらどうなのよ」
僕は女に背を向けて車へ向かった。わめいている声を無視して運転席のドアを開け、車に乗り込む。彼女へのプレゼントは過剰なくらい丁重に扱って、そっと後部座席に置いた。
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