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彼女は無邪気にアトラクションを楽しんでいるようだった。もちろん、子どものようにはしゃいでいたという意味ではない。落ち着いた様子ではあるのだが、時折僕の方を見て「楽しい」と微笑むのだ。馬に似せられた座席に乗って上下しながらぐるぐると回っている彼女を眺めているだけで、僕は満たされた。
観覧車には二人で乗り込んだ。
ガラスを通して見える夕焼けは実に見事で、西日がほんのりとゴンドラの中を照らしている。
「そういえば、あの日、どうしてあんなパーティにいたんですか?あなたなら、普通に生活していてもそういうことには困らないのでは?」
「うーん、久々に色々な人と会話したくなったからかしら。麻倉さんこそ、どうして?お見合いパーティに参加しなくたって、もてるでしょう」
「参加費を払ってでも、誰かと話したかったわけですか。変わった理由ですね」
観覧車を降りた後、もう抑えられないと悟った。
本当は、今夜予約してあるレストランで言うつもりだった。二泊三日の旅行の最後に計画していた、一世一代のイベントだ。その時彼女へ渡すつもりのプレゼント──指輪も、車に積んである。
そこまで段取りをつけていたのに、なんだか胸がいっぱいで、夜まで耐えられないような気さえする。耐えられない、というのが我ながら可笑しい。彼女に出会ってから、僕の人生めちゃくちゃではないか。
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