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何でもないことのように発された言葉で、驚きのあまり僕の頬は熱くなった。
少し遅れて、別の感情がせり上がってくる。
目を見開いたまま口角が勝手に持ち上がって、顔がひきつる。
「あなたは最高の人です」
「ありがとう」
「怒らないんですか?」
「どうして私が怒るの?私は貴方に何も奪われていません。それよりも、自分が奪う側だと過信するのは危険。貴方は頭がいい。でも、油断は禁物です」
「どういうことですか?」
「奪うのが得意な人は貴方だけじゃないってこと。例えば、盗むとか」
「え?」
彼女は、体の向きをくるりと変えて、首だけで僕の方を向いた。
「あのパーティに行った理由は、誰かとお喋りがしたかったからというだけじゃないの」
本気でパートナを探していたから、という理由でもないことは流石にわかっていた。しかし、正解はさっぱりわからない。降参して訊ねる。
「じゃあ、何のために?」
彼女の顔はもう僕の方を向いていない。
「パーティ会場のホテルに新しく設置された、ある素晴らしい美術品の下見をする、ついで」
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