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解禁前日
「みんな、明日はいよいよ卒業式だね。みんなはこの三年間、どんなことが思い出に残ったかな? 先生は……」
担任の爽木先生が、その名の通り、爽やかに歯を覗かせながら話している。めっちゃにこにこ話している。よっぽど手のかかる生徒だったんだろうなぁ、私たち。
真面目に聞くともなしに、そんなことを思っていると、後ろの席から友達の亜美が肩を叩いてきた。
「ねぇ、流響。今日のうちにさ、抜け駆けしようよ」
「抜け駆け? ……あぁ、アンタは爽木先生狙いか」
振り返ったのも束の間、話の内容を理解した私は、すげなく身体を元に戻す。
「えぇー、なにその塩反応! いーじゃん、爽木っち。カッコイイじゃん!」
「ごめん、亜美。私は断然、稲見先生派だわ」
いつも通りの程良いざわめきに包まれる教室では、亜美のむくれる声さえ小さく聞こえる。
そう。明日は私たちも先生も、待ちに待った卒業式。そして多分、モテる人は下級生から制服の第二ボタンを強請られるんだろう。そして私たち卒業生は、お世話になった先生たちのボタンを強請るのだ。
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