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もう一つの解禁
翌日の昼下がり、学校近所の公園を訪れると予想通りというか、稲見先生の姿があった。今日も捨て猫のお世話にやって来たのだろう。
私も先生も、ペット禁止のマンションに住んでいるので、現在絶賛飼い主募集中というところなのだ。
「稲見先生!」
私はいつも通り、そう呼びかけて傍に駆け寄ると、先生はおかしそうにくすりと笑った。
「もう卒業したんだから、先生じゃなくていいよ。――してなかったのか? 下の名前で呼ぶ練習」
言われて私は、はっとして俯いた。そうだった。今日から私たちは……。
「……京、さん?」
瞬間、ふっと軽く笑みを零される。
「なんで疑問形」
「だって慣れなくて……」
相好を崩すと、途端に無邪気な少年のように見える稲見――京さんの姿に、ドキドキして目を伏せる。
そんな、こそばゆくも甘い雰囲気に包まれていると、足元に二匹の猫が擦り寄ってきた。
「あれ? この子、どこの猫ちゃんだろう」
一匹は現在飼い主募集中で、今は京さんが主に面倒を見ている三毛の捨て猫だ。しかし、もう一匹の白猫は初めて見た。
「ミケが連れてきたみたいだな」
しゃがみこみ、白猫においでおいでをしながら言った京さん。私もその場に腰を下ろし、「仲良くなったの? ミケ」と三毛猫の顎を撫でて尋ねる。
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