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先生はさておき、それ何年前の話だよ! というツッコミが聞こえてきた気がしたから答えるけど、私たちの学校では伝統になっているのだ。
なので、体育館に毎年張り出される『卒業式』と書かれた看板には、こんなルビが振ってある。――『第二ボタン争奪戦』
「えぇー……。そりゃほんとのこと言うとさ、私も稲見んがいいよ。けどさぁ稲見ん、めっちゃ人気じゃん」
だから考え直しなよ。――そう言わんばかりの、気だるげな眼差しを寄越す亜美に、「分かってるよ、そんなこと」と私は唇を尖らせる。
稲見先生は“爽やか爽木先生”と違って、女子だけじゃなく男子からも人気がある。切れ長の目元が特徴のイケメンで、一見近寄り難く、私は元々苦手だったのだが――。
とある日のこと、私は見てしまったのだ。――彼が学校近所の公園で、捨て猫に餌を与えているところを。
私は思わず二度見してしまった。だって、それはそれは、愛おしげに見つめて撫でていたんだもの。あのサイボーグが! 一週間で百問計算、解けなきゃ帰れまテンをする、数学の鬼が! そんなの見たら、声をかけずにはいられないじゃん。
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