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解禁当日
そして遂に来たる翌日、卒業式当日。私は式が終わった後、事前の手筈通り、先生の元へ向かった。
昼下がり、柔らかな日の光が射し込む、誰もいない教室。黒板に描かれた『卒業おめでとう』の美しいチョークアート。
「――先生!」
私は窓際に佇むスーツジャケットの背に、迷わず抱きつき頬を埋める。
「本当にありがとうございました。放課後、いつも私に勉強教えてくれて」
「あぁ。きみは特に手のかかる生徒だったから、本当に大変だったよ」
振り返った先生は、眩しげに目を細めながら、私をふわりと包み込んでくれる。瞬間、じわりと目頭に熱いものが込み上げた。
ああ……やっと何のしがらみもなく、あなたと触れ合える。教師と生徒なんて垣根は、もう今日で超えたんだ。
「大好きです……。――爽木先生」
私は、ワイシャツの第二ボタンを口を使って引きちぎりながら、密かに手首のスマートウォッチを操作する。そしてボタンを指で摘むと、小悪魔な笑みを覗かせ、こんな挑発を仕掛けた。
「ねぇ、先生。私、知ってますよ。――これ、ボタンじゃなくて、カメラレンズですよね?」
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