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「ええ、そうです。今までの先生のお話、しっかりと録音させてもらいました」
画面の赤丸をタップすると、私はスマートウォッチの光を落とした。同時に、目の前の爽木先生は、力なく膝から崩れ落ちた。
「爽木先生。あなたも今日で、教師を卒業ですね」
私は、先程から微動だにしない彼の頭を、冷ややかに見下ろし言い放つ。しかし先生は、肩を震わせながら乾いた笑みを零した。
「は……ははははっ! そんなもの、僕の勝手な妄想に決まってるじゃないか! 冗談だよ、冗談!」
まるで壊れた首振り人形のように、ケタケタと笑いもって、ゆらりと立ち上がる。
「きみが今持ってるそれが、カメラレンズだという証拠はあるのか? 撮った写真は? そんなもの、ここにあるわけが――」
「あるんだな、それが」
自分の声を遮り、教室へと入ってきた人物を見た先生は、今度は戸惑った声を上げた。
「な、なんで……。なんで、あなたがここにいるんですか、稲見先生……」
「事前の手筈通りに、動いてるからに決まってるだろ」
実直な答えだが、爽木先生が訊いているのはそういうことじゃないと思う。思わずぷっと噴き出した私だったが、稲見先生は冷淡に、彼の前に、私が撮り溜めた証拠たちを解禁した。
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