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「さくら。
ここに座って、少し俺の話聞いてもらえる?」
まるで世間話をするかのような口振りで、だけど身を堅くする様子から世間話でない事は一目瞭然。
近くにカップルの居ないベンチ。
わざわざ、人の居ない場所を選んだ涼介。
他のベンチに座る人達との温度差に、歯を食いしばる。
なかなか座ろうとしない私にしびれを切らしたのか、自分が座っているベンチの隣を軽くトントンと叩き私を誘導した。
拒否する権利はないとでも言いたそうな目に、出来ることなら後退りしたくて。
「・・・。」
観念して黙ったまま涼介の隣に座ると、涼介は暫く黙り込んだ後、苦しそうに話し始めた。
「数ヶ月前に、俺の働いている会社に、アルバイトの子が入ったんだ。」
淡々と続ける彼。
何が言いたいのか分からず、無言で促す。
「一番下の俺が、教育係になったんだけど。
そいつ、いつも間違えてばっかりでさ。
毎日色んな人に怒られてんのに、それでも挫けず頑張ってて…。」
「最初はガッツのある子だな、と思ってたんだ。」
続けたい言葉が少しずつ分かってきて、
耳を塞ぎたくて仕方ないのに何故か冷静に聞いてる私がいる。
「・・・でも、あいつ。
誰もいない所で、隠れて1人で泣いてたんだ。」
その時を思い出しているのか切なそうに、でも愛しそうに『あいつ』と言う涼介。
嫌だ!
嫌だ。
嫌だ――――。
胸がムカムカし、絶望にも似た気持ちになり、涙が滲んでくる。
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