レジ待ち

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「847円です。お支払いはどうなさいますか」 「現金で」老人は、財布をがさごそすると、小銭を1円単位で探し始める。後ろの若い男がスマートフォン片手にイラついているのが伝わってくる。勝手知ったる主婦は、老人の列には決して並ばない。隣のレジでスイスイとスマホ決済を済ませている。  老人は若い男に顔を向ける。「すまないねぇ。でもお金といえば、私は現金しか知らないのだよ」  急に声をかけられた若者は、どう反応していいかわからず、曖昧な表情のまま軽く頭を下げる。  老人は続ける。「だがな若者、君はそのスマートフォンこそが世界の全てだと思っとるかもしれんが、そこには実は何もない。皮膚感覚で感じることができるものは何もない。そんな機械、うまく扱えて得意になっとっても、人間として誇れるものは何もない」老人はかみしめるように言う。まるで、これまで生きてきた人生の重みを言葉に乗せるかのように。 「あの」若者が初めて声を発する。 「何だね」老人は、若者が若者らしくムキになって反論してくるか、あるいは自分の話をわかってくれたのか、いずれにせよ、どんな反応が来るか、期待した。 「どうでもいいですけど、早くしてもらえません?」
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