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『一時間だけ会えない?』
メールが入った。送信者は先月別れたばかりの彼女だ。
『少し話したいの。駄目かな?』
問いに悩むことは無かった。なぜなら、別れ話を切り出したのは彼女だったからだ。
だからすぐに返事をした。
『いいよ』
『待ち合わせはあの公園で良い? 寒いけど』
あの公園と言うのは、二人でよく行った公園だ。思い出のたくさん詰まった場所、そして別れ話をした公園でもある。あの日より、随分冬は深くなった。
凍えるような空間で、彼女は何を口にするのだろう。
空想しながら、同意の返事を出した。彼女からの返信も素早かった。
『じゃあ、今から行くね』
目的地までの車内で、彼女との日々を振り返る。と言っても、強く浮かぶのは別れた日のことばかりだった。
別れる理由として、彼女が提示してきたのは、「何も言わないから」だった。淡々としていて、どこか遠回りなその言葉が、ただ脳内を巡る。
確かに僕は無口だった。彼女が話してくれて、僕が答える。そんなパターンを繰り返していた。
笑顔を引き出すような言葉が見つからなかっただけ。それだけだったんだけどな……なんて言い訳をしてみたりする。今さら遅いけど。
「そんなんで本当に好きなの?」と問われれば、それには即答できる。
好きだ。好きだから上手く話せないのだ。それを分かった上で、彼女も許容してくれているのだと思っていた。
勘違いするのも仕方がないだろう。なぜなら、彼女とはその状態で三年も付き合っていたのだから。結婚の話もしたことがあるのだから。
だからまさか〝無口〟という理由でフラれるなんて思っていなかった。
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