877人が本棚に入れています
本棚に追加
/653ページ
「桜井先生、文化祭で演奏するバンドの件だけど」
「あっ、それなら了解は得ています。ご近所の方々も楽しみにしてくれているようで」
「さすが、手回しがいいな。この調子なら、来年度はクラスを持てるよ。桜井先生は生徒にも人気ぐあるし、僕もしっかり推薦しておくから」
「私なんかが…とはもう言いません。私も須藤先生みたいにクラスを持ちたいです」
「おっ、なんか変わったな?僕の指導の賜物か?」
「そういうことにしておきます」
2人で屈託なく笑い合う。
あれから2週間以上が過ぎ、奥さんが絡んでくることはなかった。
先生の態度にも変わりがないことをみると、どうやら夫婦仲は元に戻ったらしい。それを私が尋ねることは、金輪際ない。
私は自分のほうが須藤武司を幸せにする自信があるが、実際は違う。先生の隣には奥さんがいて、家に来てくれたのも、本当に責任を感じて心配だったから。
その妻が、私に虫入りのタルトを持ってきたとは知らないが、どうやらあれで気が済んだようだ。
私も腹が立って啖呵を切ってしまったものの、これ以上は関わり合いになりたくない。
須藤舞子の性根が腐っていることを知れば知るほど、先生をそこから救い上げたくなってしまう。
だからもう、放っておいてほしかった。
しかし、私の願いは無惨にも打ち砕かれる。
最初のコメントを投稿しよう!