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「須藤先生、ちょっといいですか?」
私は職員室で、隣の席に声を掛けた。
「ん?」と、須藤武司が箸を持ったまま顔を上げる。
「あのっ、不登校の生徒のことなんですけど。何度か訪問しても出てきてくれなくて。どうやったら学校に来てくれるのか…」
「桜井先生は、家に仕事を持ち込むタイプ?」
「えっ?」
「間違ってたらごめん。でも、ここに来てからこう、肩に力が入ってるから。初めから全力でいくと、途中でバテるよ?もっと気楽に考えて」
「…はい」
「納得してない顔をしてるな」
そう言って、グッと睨まれる。
すべては、お見通しなのだと。
「まだ副担任になって日が浅い。だからクラスの生徒たちを把握したいのは分かるけど、不登校にも彼らなりの理由がある。それを1日2日で理解はできない。もっとこう、ドーンと構えてさ」
「ドーンと…?」
「そう、太々しくね。僕なんか、面の皮が厚くなり過ぎて感覚ないくらい」
そう言って笑うと、とても優しい目になる。
一見、フレームレスの眼鏡をした外見は真面目に見えるが、その心内は熱い。この目の前の教師は、絶対に生徒を見離さない。
なにより、高い志を持って生徒たちに接しているのが分かるんだ。
初めは、ただの憧れだった。
私も、こんな先生になりたい。こんな素敵な教師に。
そしてそれがいつしか、特別な感情を──。
「今は昼飯を美味しく食べる時間」
左利きの須藤先生が、ご飯をかきこむ。
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