疑似家族

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 玄関を開けると「おかえりなさい」の声。 「この番組、スゲー面白い」  小学生の荘太の声が聞こえる。 「今、ハヤケンがすごい人気だよ」 「ハヤケン?」 「はやだけんたろう、略してハヤケン。もうすぐ出て来るよ、ほら!」  テレビの画面を見るとピンク色の髪をした男性が甲高い声で何かわめきながらとびあがって手を叩いているのが見えた。 「へーえ。これがハヤケン……」  しばらく眺めていたがどこが面白いのか、よくわからなかった。 「テレビ、消して」  ふっと画面が暗くなる。 「しばらく静かにしてくれ」 「…しばらくってどのくらい?」 「そうだな、1時間ぐらい」  とたんに家の中がしんと静かになった。   家族を演じる家電と暮らし始めてもうすぐ半年になる。  一人暮らしの俺は「目覚まし」を田舎の母親に設定し、冷蔵庫は節約マニアの女の子マリ、掃除機はその双子の妹カナ、炊飯器と照明器具を現実にはいない妻、テレビや音楽などのエンターテイメント端末は荘太という男の子に設定した。お風呂が沸けば、アナウンサー志望の長女のエリがよく通る声で教えてくれる。  「家族家電シリーズ」が発売された時は、家電が喋るなんてと思ったが、気がついたら普通に会話するようになっていた。  このままと生活していたら、本物の家族のように感じてしまうようになったりするのだろうか。 「荘太、やっぱりテレビつけて」 「わかった。美濃部京子のドラマが始まってるよ」 「洗濯物、もう乾いているから出した方がいいよ」  が一斉に喋り始めた。  やっぱりにぎやかなのはいい。    
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