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一章 『渡し守』の日常
「はい、着きましたよ。段差がありますので、気をつけてくださいね」
夏の日射しが降り注ぐ中、爽やかに注意を促す青年に、二人組の女性はうっとり頬を緩めた。
見つめられた青年が小首を傾げると、彼女たちは気恥ずかしそうに笑い合い、くるりと向きを変える。
足元が少々不安定なのは小舟の上にいるからだ。板が張り出した船着き場に上がるため、自然と動きが慎重になっている。
女性客が順番に足をかけるのを見守り、最後に青年も岸へ上がった。
「本日はご利用、ありがとうございました」
そんな決まり文句ですら、イケメンに言われると想像以上に響くらしい。すっと通った鼻筋に涼やかな目元、軽く流した前髪も相まって色香を醸し出している。
女性客たちは顔を見合わせてから、意を決したように口を開いた。
「あのっ、お兄さん。一緒に写真を撮ってもらっても良いですか?」
「旅の記念に! 向こうの小島だと、やっぱり上手く写らなかったですし」
すると、青年はあっさり頷く。
「もちろん、喜んで。ええっと……ああ、侑久! ちょうどいいところに。カメラお願いできるかい?」
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