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通話の切れたスマホを眺めて、大きく息を吐き出した。その息が震えていることに気づき「ああ…」とまた息を吐く。
俺の頬を滑り落ちた涙が、ポタリとスマホ画面を濡らした。
電話の相手は、俺の大好きな人だ。
可愛い顔をして、ひどい彼女。
二日前に俺を好きだと言ったその口で、もう違う誰かを好きだと言う。
それでも俺は、彼女を嫌いになれない。
どうしようもなく彼女に囚われてしまったんだ。
まるで花の蜜に引き寄せられたミツバチのように、彼女は俺の前に現れた。
ひたすら俺の周りにまとわりついて、捕らえようと腕を伸ばすとチクリと刺して逃げてしまう。
もとより俺のものにならないことはわかっていた。彼女には遠距離恋愛中の恋人がいたから。
だけど彼女が、俺の求めるままにキスをして、俺の腕の中で甘く鳴くものだから、錯覚してしまったんだ。
俺達は恋人だ…って。
俺の彼女への想いは積もりに積もって、もう抑えきれなくなった。
このままでは辛すぎると離れる決意をしたタイミングで、彼女が言った。
「恋人とは別れる。私はあなたが好き」
俺は嬉しかった。夢じゃないかと舞い上がった。夢じゃないと確かめるように、何度も彼女の中を穿った。彼女は俺の腕の中で甘えてねだった。俺は幸せだった。
翌々日の夜に、彼女から電話が来た。
喜々として出た俺は、奈落に突き落とされた。
「やっぱり恋人が好きだから、あなたとは付き合えない」だそうだ。
俺はすんなり「わかった」と言って電話を切った。
なんとなく、こうなることをわかっていた。
だって彼女は、自分勝手でワガママだから。
俺は、こんなにも愛しているのに。
俺は、おまえだけなのに。
俺の気持ちは永遠に報われない。
報われない想いが、こんなに辛いとは思わなかった。
彼女への想いに疲れて何もかもどうでもよくなった俺は、車でガードレールに突っ込んだ。
でも、命はなくならない。
そう簡単には、死ねない。
病院から家に戻って、彼女を想う。
彼女の写真を見ようとスマホを手に取って、彼女からの着信履歴を見つけた。
彼女の番号をタップして声を聞いたら、もうダメだった。涙が溢れて止まらなくなった。「死のうと思った」と言った俺に対して「そんな悲しいことを言わないで」と優しい声を出した彼女。
でも俺は聞こえたよ。
小さく「そんなの迷惑だ」と言ったこと。
通話を切って、吐き出した息がひどく震えていることに気づいて、まだ涙が流れていたのかと溜息を吐く。
なあ、恋人を選んだのなら、もう俺の前に現れるなよ。お願いだからおまえから離れてくれ。でないと俺は、またおまえに焦がれてしまう。
スマホをベッドに放り投げて、窓辺に寄って窓を開ける。
空に微かに瞬く秋の星座を見つけて、彼女と行ったプラネタリウムを思い出しながら、また震える息を吐き出した。
(終)
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