【序】疑命

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心マを始めて既に15分。 『束の間の喜び』というものはよくある。 命を預かる医師には、最悪の出来事であった。 一定間隔で、精細な心臓マッサージを続けるのは、至難の業である。 「院長、代わります」 有藤が言った瞬間。 その手に、僅かなリズムのズレを感じた常盤。 (動いた?) 「心室細動を感知、電気ショックチャージ❗️」 「行けます、院長!」 加賀が予め準備をしていた。 受け取る常盤。 「離れて!」 「ドン⚡️……」 全員が心電図モニターに注目した。 すると…少しの間をおいて、波形が跳ねた。 「心拍戻りました❗️」 「信じられない…」駒倉が呟く。 「バイタル注意、自己呼吸確認」 手動呼吸器を外し、様子を見る。 「弱いですが、自己呼吸…してます!」 「人工心肺装置停止」 モニターを息を止めて見つめる。 「心拍85、血圧110と75、体温26.3度」 全員が安堵のため息を吐いた。 が、次の瞬間。 体内センサーが警告音を鳴らした。 「クソッ!長すぎたか…」 一瞬の安堵が、絶望に変わった瞬間。 「多臓器不全併発…あっ⁉️」 駒倉がモニターを見て固まった。 「血圧上昇、170の120❗️」 加賀が叫ぶ。 「循環器系合併症か?オピオイド投与」 「待て有藤、あの脳の状態じゃ痛みは感じないはず。…まさか⁉️」 常盤がエコーを手にした時。 「ビシュー❗️」 激しく噴き出す血飛沫。 「別の動脈瘤破裂か…クソッ!」 「血圧急激に低下、呼吸停止❗️」 「吸引!出血部位を……院長?」 冷静な目で、ゆっくり手袋を外す。 「残念だが2度目は…ない。輸血停止、ここまでだ。みんなご苦労様」 まだ暖かいその額に手を当てる。 「良く頑張ったな、爺さん」 歯を食いしばるのが、見て分かった。 「会見は明日朝9:00。私が話す。悪いが、ご遺族への説明含め、後は頼んだ有藤部長」 「お疲れ様でした、常盤院長」 もう振り向かず、出て行く莉里。 (国交省に、ヒルトンの非常階段? 全く…)
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