【中】疑惑

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【中】疑惑

〜目黒区〜 中目黒に立つ高層マンション。 深夜の0:05。 ベッドに入ったばかりの高嶺(たかみね) 真純(ますみ)を、仕事帰りの妻 志穂(しほ)が起こす。 「あなた寝てる場合じゃないわよ!お父様が大変なことに❗️」 「今日は早いな…何だって?」 「何だってじゃないわよ! ヒルトンでお父様が倒れて救急搬送されたのよ❗️」 「何⁉️聞いてないぞ、俺は」 「いいから、早く支度して、病院へ行くわよ」 高嶺真純 40歳。 寛三(ひろみつ)の次男である。 真面目な仕事人間で、世渡りの不器用さと欲の無さから、本社ではなく、子会社である樋口運輸の経営を任されていた。 妻の志穂は、赤坂にある高級クラブのオーナーであり、真純とは店で知り合った。 その腹には、妊娠8ケ月の男児がいる。 1人目は女児で、惜しくも流産していた。 慌てて支度を済ませ、タクシーで先端医大病院へと向かう2人。 父親が処置不能の大動脈瘤で、いつ何が起きるか分からないことは知っていた。 (親父(おやじ)もとうとう終わりか…) そんなことを思いながら、最後に会ったのがいつかが思い出せない。 相続争いから切り離され、疎遠の仲であった。 「あなた、まだ宗治(しゅうじ)さんが継ぐとは決まってないのよ、シッカリしてね!」 「まだ死んだわけじゃないだろう。そんな話は後にしろ」 高嶺宗治 43歳。 高嶺家の長男で、真純との兄弟仲は悪くない。 ただ、宗治(しゅうじ)は本社の管理職であり、次期社長への道は出来上がっている。 怒ったところを、見たことのない夫。 機嫌を損ねたと感じた志穂は、着くまで無言のままでいた。 深夜のため、予想外に早く病院に着いた。 それを見て、直ぐに報道陣が群がって来る。 「高嶺家の親族の方ですか?少し話を聞かせてください」 (フッ…No.2で助かった) 「何のことだ?私には関係ない!妻の容体が悪くて来ただけだ」 タクシーから降りた志穂のお腹を見る。 妊娠中で具合が悪いとなると、180度変わる。 慌てて道を開ける報道陣。 「何も言うな」 何か言いた気な志穂に、釘を刺す。 報道陣は、院長の指示により、院内への立ち入りを阻まれていた。 「おぉ真純、来てくれたか。志穂さんも、夜中にすみません」 「ご無沙汰しています、宗治さん。お父様の容体はいかがでしょうか?」 心底心配しているかの様な表情で尋ねる。 それが演技であることを、真純は知っていた。 「まだオペ中なんだが…前からここの院長から、入院していないと、破裂したら死ぬと言われていたからな…」 冗談や脅しは言わない常盤院長。 その腕と評判は、新宿中に知られている。 「貴子(たかこ)さんと司咲(つかさ)君は?」 周りを見渡して、真純が尋ねた。 「夜中だからな、司咲と家にいるよ」 妻の高嶺貴子 33歳。 父親は現東京運輸支局の局長である。 息子の司咲(つかさ)は、まだ5歳。 寛三(ひろみつ)は、父親以上に可愛がっていた。 そこへ、外科部長の有藤(ありとう)と駒倉、加賀の3人が出てきた。
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