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翌朝。
常盤莉里は眠らずに考えていた。
(何かが…おかしい)
「院長、そろそろ会見の時間です」
院長専用棟の入り口で、広報担当の柳原 衣千香が呼んでいる。
「第三会議室だな?直ぐにいく」
彼女が寝ずに考えたQ&A。
一通り目を通した莉里。
(なかなか…賢い娘だな。だが…甘い)
9:00 Just。
本棟2階の第三会議室に入る。
詰め掛けた報道陣は、50人を超えた。
院長の読みの鋭さに、驚いた柳原であった。
(想定通りか…嫌な感じだ)
テレビカメラを見て、警備員を呼ぶ莉里。
「生放送は許諾していない」
まずは敵の牙城を崩す。
正当な主張でもある。
よし!
と内心思う柳原。
「もう本番始まってんだ、今更やめられるか」
柳原を見てニヤリと笑む莉里。
(そう言うことだ、勉強になっただろう)
警備員を下げる。
「で💦では、只今から、高嶺ワールドトレーディング(株)社長、高嶺 寛三様の死亡について、内容説明を始めます。説明は、当院の常盤莉里院長より行います」
考えた策をあっさり破られ、莉里が笑んだ意味を思い知らされた柳原であった。
「執刀医は違うだろう!」
「アンタじゃなく、外科部長を出せ!」
「出せない理由でもあるんじゃないか?」
内通者がいると悟る莉里。
…の忍耐力は、あまりない💧
「うっせぇー!💢 聞く気が無いなら帰れ❗️」
マイク無しでも十二分響く怒鳴り声。
予想外の迫力に、黙る報道陣。
「要求ではなく、こっちから集めたんだ。それに文句付けられる筋合いはない」
柳原は悟った。
最初から、優先権はこちら側だったことを。
収穫なしでは帰れない彼等。
黙るしか選択肢はない。
「昨夜の深夜零時半頃、高嶺 寛三さんが、心肺停止状態で搬入されました。彼は当院の患者であり、心臓近くに致命的な動脈瘤があり、入院を勧めましたが、断りました」
強引にでも引き止めておけば…
後悔の念が胸を締め付ける。
「心停止は救急車の中で、到着の2,3分前。脳が無酸素で生きられるのは3~4分。ギリギリ間に合うと判断し、出血部位を止め、血流と呼吸を再開させるために、開胸オペを開始。止血し、人工心肺装置と輸血、そして触手による心臓マッサージを私が行いました」
生々しい記憶が蘇る。
「その結果、一時的に自己呼吸と脈拍が復活しました。しかしその直後、別の部位で動脈瘤の破裂が……」
(…えっ?…別の部位で破裂が?)
「すみません。体調がすぐれないので、今はこれで失礼します」
突然会見をやめて駆け出す莉里。
慌てて、見ていた駒倉が代役を務める。
「え〜院長は昨夜は眠っておらず、助手をしていた外科医の駒倉が引き継ぎます」
騒めく報道陣達。
以後、30分ほどで会見は終了した。
「お疲れ様でした、駒倉先生」
柳原が、水を持って寄って来る。
「出たはいいが、院長の代役なんて無理だよ」
疲れ果てた駒倉であった。
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