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【残】疑念
〜大田区〜
高級住宅が立ち並ぶ田園調布。
厳しい条例、田園調布憲章が守られている。
建物の高さは9m、地上2階までとし、土地は165平米以上、ワンルームの集合住宅はNG。
できれば植栽の石垣を設け、塀を設ける場合は、フェンスまたは柵のみで高さ1.5m以下。
特に3丁目から4丁目は豪邸ばかりで、普通の家を探すほうが難しい。
そこに高嶺 宗治の豪邸があった。
寛三の遺体は、司法解剖の対象とされ、警視庁預かりとなった。
「何よあの院長、怒鳴って啖呵切ったくせに、急に体調不良で引っ込むなんて」
「貴子、そう言うな。入院を拒んだ親父を、夜中に必死で救おうとしてくれた上に、眠れなかったんだ。仕方ないだろう」
「しかしどうあれ、これでやっと社長解禁ね。予想外に長かったわ」
「社長解禁か、なかなか面白い表現だな。しかし、あの歳まで頑張るとは思わなかったよ。もう恐れる者はいない。正式には株主や役員の会議を経てになるが、根回しはしてある」
主要な相手とは、裏で手を握っていた。
ふと心配が過ぎった。
「宗治さん…まさかだけど」
「ん?何だ貴子?」
その時、玄関のセンサーが来客を知らせた。
モニターを見る宗治。
「宅配便か。貴子、また何か買ったのか?」
「買ってないとは言わないけど、普通こんな朝から来るかな…」
ネットショッピングやオークションは、ある意味彼女の趣味になりつつあった。
「まぁ流行りだからな、忙しいんじゃないか。俺が出るからいいよ」
スイッチで柵のロックを外す。
「どうぞ、朝からご苦労様。今行きます」
玄関のドアを開けると、若い男性がダンボール箱を抱えていた。
「高嶺貴子様にお届け物です」
「やっぱりそうか。意外と重いな」
荷物を受け取り、差し出されたタブレット画面にサインする。
「ありがとうございました」
「こちらこそ」
走って出て行く彼。
玄関柵も掛けず、車に乗って去って行く。
「おいおい…忙しいのは分かるが、全く」
「これだれのプレゼント?」
息子の司咲が出てきた。
「ママがまた何か買ったんだよ。司咲、持っていけるかな?」
「大丈夫」
両腕に抱える司咲。
「じゃあ、ママに渡してくれ」
そう言って柵を閉めに行く宗治。
「全く最近の若い奴は、雑で困ったものだ」
ぶつぶつ言いながら中へと戻った。
「何かしらね?司咲、そこに置いといて」
「は〜い。カチカチ音がしてるよ」
「またアンティークの古い時計でも買ったんじゃないか?」
「私が買うなら振り子時計よ。音はしないわ」
(…まさか⁉️)
宗治、貴子、2人共同時に思った。
その瞬間。
「ドドドーンッ💥💥」
閑静な高級住宅街に爆音が轟き、大きな家の3分の2ほどが吹き飛んだ。
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