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助手席に乗り込む彼女。
黒いサングラスを掛け、煙草を取り出す。
「身体に悪いですよ」
「意外と…使い道がありそうね、彼」
携帯用灰皿を差し出す男。
「私には男を視る目はないので」
「出して、神林さん」
「フン…」
微かに笑む。
「ギュゥオーン!」
風を斬る様な加速。
救急車が去った道を向かって来る、報道各社の車が、それとすれ違った。
〜目黒法政大学医療センター〜
真純と志穂を乗せた救急車が着いた。
出迎える産婦人科の医師と看護師。
「高嶺さん…」
ニュースを見たのであろう。
微妙な空気が漂う。
「破水の量が多い…奥さんはダイエットを?」
「えっ?あ…あぁ、多分サプリメントらしきものを飲んでいました」
「妊娠中の無理なダイエットは、赤ちゃんに十分な栄養が行かず、胎児発育不全や羊水過多になり易い。恐らくはそれが原因かと。母体が危険な場合は、直ぐに切開して早産になります。同意のサインを」
看護師がタブレットを差し出す。
「よく読んで、ここにお願いします」
「第3オペ室へ」
看護師達が運んで行く。
担当の速水医師が残る。
「大変な時に、早産とは…奥さんと赤ちゃんは、私に任せてください。報道陣は、中に入れない様にしますので。では」
「よろしくお願いします」
後に付いて入っていく真純。
色々な事が重なり、思考が混乱していた。
待合室のテレビには、大勢が集まっている。
「焼け跡からは、大人2人と子供の遺体が見つかり、状況から見て、高嶺宗治さん家族と推定されています。尚、爆発が起きる少し前に…」
真澄は、静かなオペ室前の長椅子に腰掛け、ただ呆然と…その報道を聞いていた。
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