【終】疑雲猜霧

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【終】疑雲猜霧

〜東京都新宿区〜 先端医療工学大学病院。 専用棟にいた院長、常盤莉里の携帯が鳴った。 「こちら警視庁鑑識・科捜研部長の豊川だ。紗夜(さや)刑事から、あなたに知らせる様に言われたのでな」 「高嶺寛三の検死結果か」 「あぁ…そうだ。最終的な死因は、大動脈瘤の破裂による失血死。だが、致命傷は…」 「右胸部からの極薄の鋭利な刃物による、胸部大動脈…上行大動脈の切断」 一瞬黙る豊川。 「ですね?」 「ああ…その通り。連絡するまでも無かったか。さすが、名医と噂されるだけのことはある。以上だ」 電話は切れた。 「名医…か。間抜けな名医がいたものだ。高嶺の大動脈瘤は、左の弓部大動脈。出血していた部位ではない。しかし…あの有藤が気付けなかったこの刺し傷は、いったいどうやって…」 モニターには手術の映像があり、開胸前の胸が拡大されていた。 それでもまず気付けない程のライン。 (全く…また厄介なことに) 〜東邦大学医療センター〜 そんな様々な疑念や謎が散らばる中、 新たな命が生まれた。 「そんな…」 開腹して、取り上げた速水が呟く。 「先生…これは?」 「…とにかく、直ぐにNICU(新生児集中治療室)へ運んで、人工呼吸器を」 「分かりました」 術後処理をしながら、複雑な心境の速水。 (神の悪戯(いたずら)か?) 3時間後。 薄暗い病室で気が付いた志穂。 時間の感覚がまるでない。 (もう…夜に?) 「痛いっ!」 動くと切開した腹部に痛みが走る。 「あなた、いないの? 真純さん?」 返事はない。 (赤ちゃんは…私の赤ちゃんは?) 早産の場合、まだ身体の臓器や組織が十分発達しておらず、人工呼吸器などでの補助が必要となり、暫くはNICUで治療する。 その知識を思い出した。 (無事ならいいけど…) その時… 寝ているベッドの右脇に、何かを感じた。   「ゾクッ…」 背筋を走る異常な寒気。 身体中の汗腺から、冷や汗が噴き出す。 (な…なんなの?) 恐怖に声も出せず、身動きもできない。 (金縛り?) そう思った時、右下の布団が膨らみを持った。 (何か…居る) じわじわと恐怖が増していく。 するとが、ゆっくり動きだし、胸の上へと這い上がって来た。 (何?…来ないで、誰か…誰か助けて❗️) 焦っても声は出ない。 胸の上で、その重みが増した。 (息が…息が苦しい。たす…けて) ソレが、ゆっくり胸の上を這う。 小さな膨らみが、もう顎の直ぐ下に来ていた。 (助けて❗️) 感じたことも無い恐怖に支配される。 が何であるかは、もう分かっていた。 故に、恐怖に息が詰まる。 (ごめんなさい…仕方なかったのよ許して!) 必死で懇願する志穂。 そしてついに、が顔を覗かせた。 頭の中に、(おぞま)しい声がした。 「復讐…解禁」 「ギャァアアアー❗️」 思い切り、大声で叫ぶ志穂。 そこで目が覚めた。 「どうした志穂❗️大丈夫か⁉️」 「ま、真純(ますみ)…さん。えっ…夢?」 夢と思うには余りにリアルなもの。 まだ胸の上に、その感覚が残る。 「こんなに汗をかいて。着替えるか?」 「あなた、赤ちゃんは?」 一瞬、動きが止まり、間が空く。 それが不安を増幅させた。 「私の赤ちゃんは、無事なの?」 「あぁ…無事に産まれたよ。未熟児だから、まだ集中治療室にいるけどな。ただ…」 「ただ……何?」 志穂の頭の中に、あの声が蘇る。 〜NICU〜 他にも治療中の赤ちゃんはいた。 交代で見張る看護師たち。 「この子、どうなるかと思ったけど…」 「安定したわね、小さな新入りさん…」 看護師が様子を伺い、悲し気な顔をする。 「この子の将来が心配ね」 「実際にいるんですね。初めて見ました」 「私もよ。本人がどちらを選ぶか? それにより処置も可能だし、成長の過程で片方は機能を失う場合もあるとか…」 高嶺真純と貴子の子は、男女両方の性器を有していたのである。 両性具有者。 つまり男女両方の性器や特徴を持っている人。 インターセクシュアルとも言われ、性腺分化疾患のことを指す。 この因果を2人がどう受け止め、どうするか。 手術中に死亡した高嶺寛三の謎の外傷。 高嶺宗治家の爆発事件。 謎の女と新龍会幹部、神林(かんばやし)。 国土交通省の関与? 欲望が渦巻く、高嶺ワールドトレーディング。そして、真意と先の見えない状況。 そこに潜むは、復讐の始まり。 『罪なる欲望と正義の復讐』  〜疑雲猜霧(ぎうんさいむ)〜 完       ✨心譜✨
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