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 拍子抜けの答えだと思うと同時に、俺の中で形容し難い恐怖がじんわりと広がっていった。 「神というと、縁起のいい感じがしますけど」 「悪霊だったらよかったのですがね。神様は、絶対に見てはいけないんです」 「じゃあ友人はイギリスで神を見た時点で……」 「その時点では大丈夫だったと思います。なにせ、西洋ならば神様との出会いは祝福のはずでしょうから。しかし、ここは日本です。神様は禁忌の存在、絶対に干渉してはいけないんです」  俺は水を飲んだ。そこで初めて、尋常ではないほどに喉が渇いていたことを思い出す。 「どうしてですか。失礼かもしれませんが、神主さんの言葉だとは思えないというか……」 「この写真はどこで」 「飲み屋近くの公園です」 「公園の特徴を教えてください」 「えっと、遊具はあまりなかったですが、無駄に広かったです。あと、近くに川がありました」 「それです。川の神様です。神様はにいらっしゃるのです」 「教会って、キリスト教ですか」 「いえ、いや、キリスト教ではそうかもしれませんが、境目という意味の境界です。神様のような霊的存在はよく廃墟にいらっしゃると思われがちですが、実際は違います。境界、それは二つの世界の狭間なのです」 「川……」固唾を飲まずにはいられなかった。「大地と水場の境界、ということですか」 「はい。トンネルや海辺、山なども境界です」  偽りの心を持つ信者にも手を差し伸べた神、そして正しい信仰を持った神主でさえ触れようとしない神。もしも武司が雲の上から見ているのなら、教えてほしい。神とはなんなのだ。 「とにかく、危ないものなんですね。それで、どう処分すればよいのでしょうか」 「……とりあえずこちらで預からせていただきます」神主は遠くを見つめるように頭を上げ、「まだ間に合うといいのですが」  神主に天を仰がれては安心できるものもできない。崇高な話によって積み上がった彼への信頼度に少しひびが入った気がした。 「まだ間に合う、というと」 「いえいえ」スマホは被せてあった布で覆われた。「こっちの話ですのでお気になさらず」  またなにかございましたらご連絡ください、という縁起でもない言葉に返答しかねた俺は、神主についていくように来た道を戻った。 「本日はありがとうございました」俺は襟足を掻きながら、「最後に聞きたいことが……」 「なんでしょうか」 「上司、つまり神主さんの弟から連絡があったとのことでしたが、どんな内容でしたか」  神主はぴくりと両眉を上げ、言った。 「ええ。神様に魅入られた部下がいる、と」  なぜか神主の視線は俺の頭上に向けられていた。思い返してみると、彼は度々俺の頭上を盗み見ていた。  ——きっと武司がいるに違いない。今はそう信じたくてたまらなかった。
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